秋



水路を流れ落ちる水。


夕顔の花。


稲刈りが始まった。
コンバインが田の周囲からぐるぐる渦を巻くように刈り取り、わらは細かく切断されて田の面に撒かれた。
コンバインを運転する人、脱穀した米を運ぶ車を運転する人、
この日ばかりは家族総出だ。
日が落ちて、薄暗くなるまでコンバインの音が響いている。


    稲刈りを終え満月の道帰る


田をうるおしてきた水路の水も田に入ることもなく、まっしぐらに流れ落ちていく。
ほとんどの水路はコンクリートで固められているなかに、珍しく昔ながらに土をえぐって流れるところがあった。
水辺の緑、なつかしく美しい水路だ。
コンクリートの曲がりくねった水路で、水が対岸の曲りの外側にぶつかり、はねかえって逆の側にぶつかっていくところがあった。増水した川の、堤防にかかる圧力がよく分かる水の流れだった。


    ひたすらに水の流るる苅田かな


土に夕顔の種がひそんでいたのだろうか。
この夏、あれこんなところに、意外な所から夕顔が芽を出した。
枯れ草の捨て場にしていたところだった。
支柱をたててやったら、蔓を伸ばし、ある朝、白い一輪をつけた。
大輪の見事な夕顔だった。
それから毎夕、ぽかりぽかりと白い見事な花を咲かせている。


    夕顔の無垢の白さよ星月夜 
 

風の音だけが聞こえるアルプスの尾根道にぼくのあこがれが飛ぶ。
朝、昇り来る陽を迎える喜び、
夕暮れ、沈み行く陽を見送る名残惜しさ。
かすかに静かに、やがて訪れる風雪の季節にそなえる山がひっそり動いている。


     いざ行かむ花野過ぎりて峰の道


9月に入って、秋野菜の種まきが集中してきた。
土を集めてきて畝をつくり、苦土石灰を撒き、堆肥を入れ、種をまく。
大根、蕪、タマネギ、白菜、小松菜、ほうれん草、野沢菜、チンゲン菜、
きれいに芽が出てきたときは、命の見事さを感じる。


    野沢菜に飛騨の赤蕪秋の茄
 

このごろ朝5時は、まだ薄暗く、かすかに東の空が赤みを帯びてくる。
ランをつれて歩く。今日は常念が見える。
ソバ畑の白い花が野の底から浮かび上がる。
月が北アルプスに落ちかかり、日が昇ってきた。


     蕎麦の花夜明けの底を歩み行く


ふっと昔を思い出すことがある。
茂造叔父に赤紙が来て海軍に入隊し、戦地にいった。サイパンだった。
叔父は農家の長男だった。もぎ取られた一家の柱、妻と幼い女の子、老いた父母が残された。
叔父は、白木の箱になって家に帰ってきた。
箱の中に遺骨は無かった。


    戦地より叔父は還らず稲稔る