軍隊の特徴


        ビンタ

        
『レイテ戦記』を書いた大岡昇平が、こんなことを語っている。
戦場をつぶさに体験した者の、証言のひとつ。


「ヨーロッパの軍隊でも、むちうちということがありました。
いうことをきかない兵隊を懲罰して、むちでひっぱたくってことが、
ロシアはもちろんドイツでも、イギリスでも、
百年ぐらい前まであったんですけども、
だんだんやめる方向へ向いてくるわけですねえ。
日本では相変わらずビンタというものをやっていた。
輜重輸送なんてのは、馬の扱い方をまちがえると、馬糞を食わされるとかね。
実に前近代的な、奴隷的な扱いをしてたわけで、そういうことをやってるから、
勝ってる時はいいけど、いったん負けいくさになると、もろさが出てくるわけですね。
自分の敵をうらむよりはむしろ、
自分の上官をうらむというような現象が前線のあらゆるとこで起こってくる。
兵隊は、森や林の中へ逃げ込んでしまって、いわゆる遊兵っていうものになるんです。
遊兵が非常に多かったっていうのも、レイテ戦の特徴なんですよ。」

「兵隊は、一銭五厘で呼び出し、牛馬みたいにこきつかうから、
私的制裁でひっぱたいて、戦争をさせるという軍隊の組織に、
日本的な特徴があるんだ。」
       
       『戦争』(大岡昇平 1978 九芸出版)


この証言は、戦争と軍隊の、一部分を暴いている。
戦場、軍隊、兵士、それらをあらゆる角度から調べていけば、
戦争と軍隊の真相が明らかになっていくだろう。


さらに、人間というもの、組織というもの、
集団というもの、国家というものが、
どういうものであるか明らかになるだろう。


ビンタという体罰は、軍隊だけでなく、
人をたばね、統率し、従属させていく仕組み、たとえば学校でも使われた。
そして、「自由教育・民主教育」を旗印にした戦後においても生き残った。
多くの教師が、程度の差はあれ、それをやってしまったという体験を持っているだろう。
学校の中の誰か教員が、それを行う。
それが、秩序維持に役立つとなると、
否定の意識から、やむをえないという肯定の意識になり、
慣れが生じる。
そうして、代々学校のなかで温存され継承されていった。
この力のよる方法が、通用しなくなったとき、
本来生み出さなければならなかった指導力・教育力の貧困さが露呈してくる。


いまや親のわが子への暴力も増えている。
親のなかにも、本来の教育力の貧困におちいっている人が多くいる。