戦争論 7

 

 

 「野火」「俘虜記」「レイテ戦記」など、兵士としての戦場体験を大岡昇平は書いた。

 「戦争」という語り口の著書がある。そこにこんなことを書いている。

 

 トルストイの「戦争と平和」は、ロシアが戦争に勝ったから書けた。私は負けた側から、戦争とは何かを書こうとした。

 

 戦場で思った。

この戦争は負け戦だ。どうせ殺される命なら、どうして戦争をやめさせることに命をかけられなかったのか、そういう思いが頭をかすめた。

 目前に死をひかえた自分はどういうふうに一夜を生きたか、その一夜がいかに奇怪なものだったか。

 自分は生きながらえて日本に帰った。マッカーサーが言った。「日本全体が強制収容所だったのだ」。

 

 中原中也は昔の友だちだったが、あまり読まなかった。けれど、昭和18年、いよいよ戦場に行かなければならなくなり、何気なく中原中也を読んだ。変に心にしみた。

 

   丘々は

   胸に手を当て

   退けり。

 

   夕陽は

   慈愛の色の

   金の色。

   

   かかる折しも我ありぬ

   幼児に踏まれし

   貝の肉。

 

   かかる折しも剛直の

   さあれゆかしきあきらめよ

   腕拱きながら歩み去る