コシアブラの木


        コシアブラを植えた


コシアブラの苗がホームセンターの園芸コーナーにあった。

以前、奈良の御所・名柄にいたとき、兵庫・加美町で紙漉きをしている友人が、
「金剛・葛城山に、コシアブラがないか」と言っていたことがある。
食用にできるという言葉を、かすかに覚えていて、
明日香へ行ったとき、甘樫の丘だったか、木にぶら下げられたプレートに、
コシアブラと書いたのを見つけた。
なんだ、こんな木か、
地味で平凡、その姿には興味も湧かなかった。


あのころ、気に留めることもなかったコシアブラだったが、それがいま目の前にある。
苗は、1メートルほどの背丈があり、
枝に小さな札が付いている。
「テンプラなどに、コクのある絶品」
タラの芽のように、新芽を食するらしい。
どうしようかと迷ったが、
この木が庭にあってもいいではないか、
テンプラはどんな味かな、
と興味がわいてきて、買ってしまった。


早速帰って庭に植え、
植物図鑑などで調べてみた。
「この木の樹液を漉して塗料に使ったからといわれています。
落葉高木で、5枚の小葉に短い柄がついていて、
秋の終わりごろ、美しく黄葉した大きな落葉が人目につきます。」
と書いてある。
昔この木から樹脂をとって濾し、漆に似た塗料を作ったところから、
「金漆」という別名をもつという。
「材は、箱、てんびんぼう、はし、しゃくし、ようじ、扇子の骨、下駄、マッチの軸、船舶、印刷、版木などに使った。」
とあるから、かなり有用な木だったのだ。
樹高は15メートルから20メートルにもなるというから驚いた。
しかし、食用については、詳しく書いていない。
簡単に「若葉は食用とする」とだけあった。


ためしにインターネットで検索してみたら、
出てくる、出てくる、
ひどい話も書いてある。
尾瀬谷川岳で、この木の先端が、
鋭利な刃物で切り取られているのを、大量に発見したという人がいる。
タラの木の受難と同じ現象だ。
最近人気の出てきたコシアブラを、山で見つけては、その枝を切り取り、
たぶん挿し木か何かにして、商売にしている人もいるのだろう。
目撃した人は、こんなことを書いている。


尾瀬の場合も、枝先の採集は、特別保護区の境界付近での現象でした。
これらの方法では、少なくとも雪に埋まっている半身の方は、難を逃れますから、
コシアブラの生育には致命的ではないと思われます。
また、芽や枝を摘まれると、コシアブラはより多数の芽(枝)を生え出してくる習性もあります。
そこは、『作業』をする方々も、翌年のことに知恵を利かせているのでしょう。
私は、背丈のあるコシアブラの木が、残雪に埋まって冬を耐えているのを見て、
『豆腐の木』『芋の木』と呼ばれるこの木が、
山岳地帯でしぶとく生きぬいている秘密を知ったような気がしました。
これが、もしも幹が硬い樹種ならば、雪の重みでへし折られてしまうでしょう。
コシアブラは、生長が速く、しかも背丈が5、6メートルになってもなお、幹が柔らかい。
成長途上で雪の重みがのしかかれば、しなやかに倒れこんで、生き抜くことが出来る。」


コシアブラの生命力に期待するにしても、
得するためには手段を選ばない人の増えていることを危惧する。
コシアブラは、丘陵帯から亜高山帯にかけての山地の林、
とくに日当たりの良いブナ林に多く自生しているらしい。


食に関しては、新芽を、天ぷら、おひたし、味噌和え、吸い物等で食すが、
特有の苦味と臭いがあり、
昔から薬用植物としても知られている、ということだ。
さて、我が家のコシアブラの新芽は、2,3年後に、食べられるだろうか。