席替え


        今日の楽しみ


日曜日の朝、NHK歌壇に入選していた次の歌が、
印象に残った。


前髪をちょっと濡らし
「行って来ます」
風薫る五月
席替えの朝


母親の作だろう。
我が子が登校していく。
思春期に入りつつある我が子は、
前髪をちょっと濡らして、元気よく家を出ていった。
その日は、席替えがあるから、子どもは楽しみにしている。
席が、好きな子の横になるかもしれない。
少しの期待と緊張と、
髪の毛を水で濡らして整えていった。
「行って来ます」
この声にも張りがある。


席替えというのは、中学生にとっては楽しみなものだった。
どこになるか、誰の横に座ることになるか、
前の席か、後ろの席か、
いろいろな思いが湧いてくる。


担任にとって、席替えは、学級経営のひとつの重要な仕事だった。
クラスによって、教師によって、さまざまな決め方が登場した。


担任教師が決める。
箱にくじを入れておいて、
それをひいて決める。
学級の席替え委員会で決める。
全員が希望を出し合って決める。
最初たとえば男子が席を決め、決まった席は秘密にしておいて、
続いて女子が決めて、男女混合の席を決定する、
そんな方法をすることもあった。
班単位で座るやり方もあった。


教壇のすぐ前には行きたくない、
あの子と座りたい、あの子とは座りたくない、
窓際に座りたい、真ん中の席はいやだ。


クラスのなかに、ほのかな恋心を抱く生徒がいれば、
席替えはドラマになってくる。
毎月席替えをしようと提案してくる、席替え大好き生徒もいる。


席替えは、一つの新鮮な生活の変化をもたらす出来事であるのだ。
そしてそこには、いろんな子どもの思惑が含まれているのだ。
小さな活動で、
どうでもよいことのようで、
子どもにとっては重要な意味を含んでもいる。
変わらぬ日常生活のなかに、
新鮮な五月のそよ風がさざ波を立てている。


この歌の作者は、
子どもの心をよくつかみ、
ほほえみなが見守っている。
コミュニケーションの豊かな親子関係が想像できて、
楽しく、うれしい。