変化


      文明の建てるバベルの塔
    

表情の物語るその思いが、こちらの胸にもそくそくと伝わってくる。
5月6日のNHKスペシャルは、「激流中国『老人ホーム家族の記録』」を報道した。
中国・青島の老人ホームを取材して、入居する人たちの家族の思いを伝えるドキュメンタリーだった。
中国は今、日本以上のスピードで高齢化が進んでいる。
老人を敬い、大切にする伝統的な家族関係と暮らしが、
急激な経済発展による生活環境の変化と、
競争と格差の荒波にもまれている。
親を世話する息子、娘たちは、老人ホームに親を入れるのに抵抗があるが、
仕事や生活の関係でそうせざるを得ない。
葛藤しながらも、親をホームに送り出す息子、娘たち。
子どものためだからと、観念しあきらめ、だが心はむなしく寂しい。
その表情がすべてを表していて、やるせない。
よい条件のホームに入るのには、大金が要る。
元医師であった老夫婦は、
親の金を当てにして働こうとしない息子によって、
持ち金まで奪われてしまった。
「高校まではこんな子ではなかったのに」
と老いた父はつぶやく。
「共に暮らす」きずなを断ち切る発展とは、なんだろう。


日本と中国を報道する中国人ジャーナリストの莫邦富さんが、
温家宝首相が訪日したとき、
朝日新聞コラムに、
「日中間の氷は、一日や二日でできたものではない。
両国の国民が、この氷を融かす作業に取り組まないことには、
春が訪れることはないだろう。」
と書き、温首相訪日の際の中国メディアの報道に批判と希望を投げかけていた。
中国中央テレビの名キャスターの日本取材番組を見た私は、
苦々しい思いがした。」
と述べるその内容は、キャスターのとらえる視点だった。
舞台劇に力を入れる女優、栗原小巻が独身であることや、
その収入を想像するキャスターの思考回路に失望し、
家庭ゴミの分別などの取り上げ方やテーマの絞込みが、
甘く表層的であると批判する。
NHKスペシャルの中国報道と比べて、
大きな差を感じ取ったと莫邦富さんはいう。
しかし莫邦富さんは、キャスターの言った、
「中国全体として日本をもっと知るべきだ」という言葉に希望を感じた。
祖国を厳しく率直に批判する、その眼に莫邦富さんの祖国愛が光っている。
愛するからこそ、自らの国を正視しようとする態度を感じる。


中国の青年研修生にじかに接していて、ぼくはぼくなりの若者の変化を感じ取っている。
その変化は、中国社会の現われでもあろうし、
又、来日した研修生には、それらの青年たちを選考した日本企業の
日本人の人間観が反映しているようにも思える。
現代中国を、一部の来日研修生の姿だけから推し量ることはできないが、
その一面が現れていることは事実だろう。
中国を見て、日本を見る、
日本を見て、中国を見る、
ベトナムを見る、世界を見る。
そしてまた日本を見る。
中国社会と日本社会の変化、アジアの国々の変化、
世界の国々は豊かさと平和に向かって歩いているようで、
それと逆の道をたどっているように見える。
人間社会の問題を、国境を越えて、
ナショナリズムを超えて、
共に考えていくことが避けられない、そういう時代がきている。
一国の問題ではない。