鎮守の神の獅子踊り

  
        伝統を子どもたちが受け継ぐ


長良川のほとりにある、小さな神社だった。
中国の農村青年たち6人と散歩して、その神社にやって来た。
丈高い幟が二さお、強風になびいていた。
県の重要無形文化財に指定されている獅子踊りが行なわれる祭り、
近々それが行なわれることを、
拝殿にしつらえられた旗や幟が伝えている。
「日本の村にはね、昔からこういう神様がいます。」
日本語を習って二ヵ月半の青年たちは、
単純な会話しか理解できない。
秋の収穫を感謝する祭りの説明は、
未だ十分に理解できなくても、自然界への感謝の心は理解できる。
長良川の堤に上がって、水鳥たちの群れを眺め、
りょうりょうと鳴る秋の空を見渡す。
「きれいです。」
と青年たちは言う。


翌日の昼過ぎ、強い風に乗って聞こえてきた神楽、
今日なのか、祭りは。
急いで神社へ行った。
「平方勢獅子」、
「ひらかたきおいじし」という民俗文化財に指定されている舞が
奉納されようとしていた。
小さな拝殿の前にござが敷かれ、
神輿がその横に安置されている。
参拝者は村の150人ほど、半数は子どもだった。
演目は七つ。
剣舞もある。夫婦和合の舞もある。
獅子の中に入って舞うのも、狐や猿の面をつけて舞うのも、
すべて子どもたちだった。
夫婦和合の舞は、ひょっとこ面をつけた農民とおかめの面をつけた農婦、
どちらも中学生が扮して、ユーモラスな舞をする。
たぶん昔はもっと大胆だったろうと思われる男女のしぐさが、
中学生が演じるために、簡略化されているように見えた。
「狐釣り」という舞は、
油揚げをぶらさげた、竹で作ったワナをかついだ農夫が登場する。
狐が出てきて油揚げをとろうとし、それを捕まえようとする農夫、
かけひきのしぐさが面白い。
猿たちは、小柄な中学生で、猿の面をつけてとんぼ返りをしたりする。
神楽の曲を演奏する笛は、女の子だった。


隣にいた村の長老に聞いてみた。
江戸時代からつづいてきたこの獅子踊り、
戦時中も絶えることなく、青年団に引き継がれてきた。
今も、村の中学生、高校生、大学生が、継承している。
「私たちの青年の頃は、きびしく仕込まれましたが、
今の子らはきびしく叱ると、だめですな。」
そういうことだろう、舞も曲芸も、まだまだ練習不足のようだった。
「しかし、こういう伝統芸能を、小さな村のなかで、
子どもたちが継承しているのは、貴重で、すばらしいことですね。」
と僕は感想を漏らす。
まだ、こういう伝統が、観光とは無縁の地域の片隅で、
かろうじて生きている。