商店街の一軒の店

 
      今夜のおかず


商店街には「○○銀座」という名前が付いているから、
昔は近在の人を集めてにぎわっていたのだろう。
江戸時代は街道筋、
老舗の造り酒屋や寺もある、古い家並みもある。


今はちらほら人が通るだけの、
商店街の多くの店は、
シャッターを閉ざし、
昔の名残りの街灯に取り付けられたスピーカーがかろうじて、
演歌をわびしく流し続けていた。
通りには、衣料品店、八百屋、酒屋、いくつかの店が開いているのだが、
なかの一軒の八百屋風のスーパーだけは、
ひっきりなしに訪れる人でにぎわっている。
そんなに広くもない店内には、
果物・野菜・肉・魚・加工食品・調味料・酒、日用品が、
ぎっしりあふれんばかり。


一人の男性の高齢者が、籠に二つほど品物を入れていた。
小柄な彼の背中が丸まっている。
「今日、これがいいよ。」
威勢のいい声がして、
焼き魚のトレイを店のおばさんが指差している。
男性はうなずいてそれを籠に入れた。
代わって別の男性が、やってきた。
「昨日、あれ食べたかい。今日はこれがいいよ。」
店のおじさんが声をかける。
男たちは、一人暮らしのようだった。
買うと言っても、ほんの少し、
その日食べる夕飯のおかずだった。
店で焼いた魚や揚げ物、店で作った惣菜や寿司なども並んでいる。
サンマの焼いたのは150円。
電子レンジでチンすれば、簡単に食べられる。


店の人たちは、この常連さんたちの食生活をよく知っていて、
昨日食べたものは何、
じゃあ、今日はこれがいい、
と勧めるのだった。
男たちは、たったひとり食べる夕食のわびしさを、
ここでの買い物で、少しはいやされているように見えた。
たんたんと買っていくおばあさんたちに比べて、
ためらいがちに買っていく男性の沈黙には孤独がにじみでている。


さびれた商店街のここに、
昔の人情商店が生き残っていた。


ぼくもサンマの一匹を買って帰った。
店の人は、
この人も、一人暮らしかい、と思ったかもしれない。
当分、ここで仕事しているぼくの背中にも、
わびしさがただよっているかしらん。