リンゴの木の箸置き


      リンゴの木の箸置き


アキオファームの、薪にするリンゴの小枝を何本かもらってきて、
箸置きをつくることにした。
奈良の緑枝舎でつくった箸置きは今も愛用している。
アンズ、ヒイラギ、キンモクセイ
ただの枝ではあるが、細工して箸置きにしたそれらは、
木肌の個性に深い味わいがある。


親指か人差し指ぐらいの太さの枝を、
五センチほどの長さに輪切りにする。
箸を直接乗せる部分をカッターナイフでゆるやかなカーブに削り取る。
木肌を削ると固い木質部が現れてくる。
木目の内側ごとに木の色が微妙に変化する。


テーブルに接する部分は、転がらないように、
鉋で少し平らに削った。
この鉋は、使う人がなく打ち捨てられていたもので、
刃の部分がすっかり錆びていた。
使えるかどうか、刃を取り外してみると、
錆びのなかに製作者の名前が彫ってある。
砥石で軽く研いでいった。
時間をかけて研いでいると、焼入れが光りだした。
これはいける、
錆びの中から元の鋼が現れてくる。


刃を木台にはめ込み、
リンゴの木を削ってみた。
すいすいと木はなめらなか痕を見せて平らになった。
昔の鋼はやっぱりいい。


節のないまっすぐな部分を選んでつくっているうちに、
小枝を切り取った節がこぶのように盛り上がったものも、
かえっておもしろいものになりそうで、
つくってみると、野趣のある箸置きになった。
木肌も同じリンゴの枝だがいろいろある。
つくっているうちに数は二十個になった。


これを柿渋液に漬けてみよう。
容器に洋子が柿渋染めにつかっている液を入れ、
箸置きを漬けた。
一時間ほど漬けてから日に干した。


出来上がった箸置き、
つやつやした渋い輝き、
くせのあるものほど、味がある。
こぶのあるものほど、魅力がある。
傷跡のあるものほど語りかけてくるものがある。


全部で五十一個。
これを軽井沢の手作り市にもっていくことにした。
洋子のつくった柿渋染めの布の作品、
ショールやタペストリー、バッグといっしょに、
箸置きをテントの下に並べた。
店の名前は「工房 かくれんぼ」、
名前を書いたリンゴの丸太をテントの前に立てた。


公園の広場に三十の店がならんだ。
ちらほら人が来る。
洋子の作品は数点売れた。
ぼくの箸置きは一個も売れなかった。