⑤初めての雪山へ


        雪の比良山

      <こういうこともできた時代の ひとつの記録です>


登山部二年目の冬休み、雪山に登る計画を立てた。
山は比良山系の武奈が岳、琵琶湖の西にそびえる山だ。
京阪電鉄で大津まで行き、江若鉄道で比良までことこと走る。
琵琶湖は右にひろがり、山は左に雪をかぶってそびえたつ。
宿は、山麓の田舎旅館で素泊まり。
旅館は低料金で、中学生に古ぼけた離れ座敷を貸してくれた。


自分たちで作った夕食が終わると、お楽しみゲーム大会のはじまり。
キャンプの夜はいつもゲームをする。
この日は「ギャング」、電灯を消して暗がりの部屋でする抱腹絶倒のゲーム。
部屋のあちらこちらにみんなは散らばる。
電灯を消すと暗闇だ。
暗がりの中をごそごそ動き、
手探りで相手をつかまえたら相手の首に腕を巻く。
腕を巻かれたものはわざと大きな悲鳴を上げ、倒れることになっている。
悲鳴を聞いた探偵は、急いで電灯のスイッチをひねる。
見ると一人が倒れている。
笑いが爆発した。
犯人は誰か。
探偵はみんなの表情を観察しながら、
ギャングを推理する。
少し乱暴だからこそ男の子の心理をとらえる、愉快なゲームだった。
遊びは育ちの重要な要素、
集団遊びはコミュニケーションを深め、みんなを一つにする。


翌日、旅館を出て正面谷に向かった。
旅館を出発して正面谷まで来たら天候が怪しくなってきた。
雪は三十センチほど積もっている。
青ガレという、金糞峠に突き上げる正面谷のガラ場に来て、
下から見上げたら、
青ガレの雪はクラストしているではないか。
本格的な冬山だ。
中学生には無理だ。危険すぎる。
そう判断した。
登山は中止、引き返すぞ。
全員だまってきびすを返した。
この日、琵琶湖岸でさんざん雪合戦をして、
山に登らずに帰ってきた。


三年目の冬、再び比良登山を計画した。
今度は雪の量は前よりも多い。
例の青ガレは新雪をかぶっていたが危険はなく、
ラッセルの跡を残しながら直登して峠に至り、八雲が原の山小屋に着いた。
そのときまたもや雪雲が空を覆い、吹雪になった。
雪は五十センチほども積もっている。
ところが子どもたちは何枚かのタオルを丸めて紐でくくり、
それをボールにラグビーをやりだした。
新雪をけちらし、歓声を上げ、
一時間ほどのラグビーに凍える手足は温まり、体から湯気がたった。
遊ぶ子どもたちの猛烈なエネルギーにはいつもいつも感嘆する。
淀川中学校登山部、結局そこから引き返し、
同じルートを降りてきた。
二回目の冬山だった。