④大台ケ原から大杉谷へ


        原生林でのロマンス

      <こういうこともできた時代の ひとつの記録です>


月に一度、日帰り登山を重ねていくうちに、
次第に登山部員の装備や服装も整っていった。
大阪近郊の六甲山系、北摂の山、金剛山系、和泉山脈をほぼ登り、
次はいよいよ紀伊山地


登山部の二年目の夏山は、大峰山脈の山上が岳と稲村が岳に登る。
二泊三日の幕営地のひとつは大峰奥駈け道の竜ヶ岳近く、
行く人のいない尾根道の幽すいの地は木々が生い茂り、
ガマガエルがテントの周りを歩き回っている。
昇はガマを平然とつかんで眺めていた。
大ダニが海三郎の腹に食いついた。
ダニの尻を引っ張ったら頭がちぎれて皮膚の中に残ってしまった。
夜の焚き火を囲むと盛り上がる話、
このあたり明治の頃までニホンオオカミが徘徊していた。
今も棲息しているという人もいる。


そして、三年目の夏山は大台ケ原、
メンバーは二十人になった。
自然を破壊すると言われたドライブウェイはまだ開通していない。
吉野川源流の筏場までバスで入り、一日かけて登る。
空晴れ、原生林が輝く。
大蛇ぐらの大岩壁の上に立って、重畳の山々に子どもたちは叫んだ。
これが山だ、これが山だぞ。
大台から大杉谷へ下り、堂倉小屋の近くにテントを張って食事を作り始めたら、
生徒たちの様子がそわそわして、気持ちが小屋に向いている。
彼らは何かこそこそ話し、次々小屋へ出かけて行く。
避難小屋のような粗末な山小屋、はて、どうしたのだろう、
観察していると、なるほど、そういうことか、
小屋から十五、六歳のかわいい女の子が出てきたのだった。
小屋番の父親の手伝いに彼女は麓から登ってきていた。
三年生は一目ぼれ、恋心が芽生えた。
翌朝、淡い恋をふりはらい、
残念だけれど下山するよ、
林道を抜けて筏場へ。
大峰、大台の百千の沢は岩をうがち、日本一の豊かさを誇る。
麓の清流にすっぱだかで飛び込み、汗を流して、一遊びだ。
すいすい泳ぎながら飲む水のうまさ。


堂倉の恋を忘れられない彼ら、
もう一度大杉・堂倉へ行こう、と言い出し、
彼らの夢は一年後に、大杉谷の全下降となって実現することになる。