わが家族、ラン


      ランという犬
 
ランはもうすぐ一歳になるラブラドール種だが、二代前に四分の一別の種が入っている。
食事時間になると飼い主の眼をじっと見つめ、正座して待ち、
容器にドッグフードを入れる間も、
よだれをたらーり落としている。
天気のいい昼間は庭で過ごすが、
雨の日や夜は家の中で一緒に暮らしている。
好奇心が旺盛で、天性のいたずら好き、
地面に穴を掘り、木の棒を振り回し、床からものを運び出し、
畑の作物を好んで食べ、空飛ぶ鳥を観察している。
夕方家に入って家族で団らんするとすっかりリラックスし、
ボール遊びにつかれると、ストーブの横で体を伸ばしてうたたねをする。
最近、ドアの長細いノブを鼻先で開ける技術を習得した。
黒光りする精悍な体躯がグランドを疾駆するとき、
獲物を追う狩猟犬の顔になる。
最悪のいたずらは、双眼鏡を噛み砕き、ぼくのめがねも壊した。
散歩に出ると、
他の犬の姿を見かけるとリードを引っ張り、
別の犬の匂いに気づくと、地面をかぎまわり、
橇犬になったかのごとく渾身の力で引くランに、
ぼくはときどきかんしゃくを起こした。
おかげでぼくは足首を傷め、なかなか治らない。
それから訓練方法をあれこれ研究して、
おやつを与えほめながら教えるようになってから猛進は影を潜め、
やっと同速歩行に近づいてきた。
ランが従順にいうことを聞くときは、
「おりこう、おりこう。」
言うことを聞かないときは、
「おまえはアンポンタン」
かわいいランはいい子になったり、だめな子になったり、
評価は上がったり下がったり。
言うことをきかないとき、ぼくの愛情は瞬間的に切れ、
不満が鋭い言葉になってランの上に落ちる。
彼女は何を叱られているのか分からないのに
感情は力のしつけを呼び寄せる。
だが、犬の意欲を引き出すのは、
ほめる言葉や行為や表情で、
通い合う愛情なのだ。
冷静にランと話すと、
しっかり眼をみつめて彼女は聞く。
首をかしげて、何だろうと聞いている。
幼少期の経験や情緒的性格が豊かな犬は、従順で訓練がしやすく、
その結果が「利口な犬」「できる犬」になるのだという。
幼児期に社会化がうまくいかず、飼い主と充分な絆ができなかった犬は、
学習しようとせず、訓練がしにくい犬になりやすいという。
「イヌのこころがわかる本」にマイケル・フォックスが書いている。
現代の重要課題、人間の発育過程の研究に、
イヌの研究が役立つと。


人の子の師であれば、自らに問うべし。
子の親なれば、自らに問うべし。
人の子の師となる資格、親の資格とは何ぞやと。
我、人の子の師でありしかば、今自らを問う。