穂高星夜

 大学山岳部のときも社会人になってからも、山のパートナーは北山君だった。ぼくより一年上、彼はもうこの世にいない。二人で登攀した数々の山がよみがえる。

 学生の時、北さんが「穂高星夜」という本を貸してくれたことがあった。大正14年の版、著者は書上(かきあげ)喜太郎という人だった。

 「穂高星夜」は、山岳文学史上、消えることのない珠玉の名文とされている。

 穂高山群の岩稜のコルに穂高小屋がつくられたのは大正14年7月だった。初めは小さな山小屋だった。

 書上は夏のひと月小屋に泊まって、山々を登り、山々を心に感じ、夜は星を眺めた。

 穂高小屋の西側は飛騨、東側は信濃、夜が更けるにつれて、穂高山群が動く。星が動くのではない。信濃が沈み、飛騨が浮き上がる。地球が回り、日本の国が動く。夜が更けるにつれて、北斗七星は沈み、カシオペアが上っていく。

 

 息子が撮ってきたこれらの写真。

 かつて前穂高北尾根5、6のコルから、険しい岩稜を共に登った雨包君と宮谷君に、そして淀川中学校登山部創成のメンバーで、年を経て今回の「夕映えのなかに」出版に尽力してくれた新船君へ、この穂高の写真と文章を贈る。