反戦の波は起きているか

 

 

 中野重治に「兵隊について」という詩がある。その一部を掲載する。

 

 

      兵隊について

 

  見たか

  賢そうな泣きつらを

  背嚢形の汗を

  からだ中から革具の匂いのしてたあの兵隊を

 

  気づいたか

  君に何か言いかけようとしたのを

  奴は言おうとしたのだ

 

  見てくれおれを

  おれは兵隊だ

  おれが兵隊だということが一切なのだ

  でかい兵器廠(へいきしょう)がグワングワン吠えたて 

  おれたちは 年がら年中 人殺しの稽古だ

  そして「殺せっ」と来やがる

  ウムを言わせぬのだ

  靴とビンタと減食と寝台かつぎとだ

  誰かの母親のわきの下へ拳骨をつっこんで

  どこかの赤ん坊の頭を銃の台尻でつぶす

  人をいためつけ さいなむことで

  おれたちの手をもっと大きくし

  もっと頑丈にし

  そして汗をかくのが仕事なのだ

  いじめて いじめぬかれて

        憲兵にどつかれて

  どこでも どうしても 誰に向かっても

  一言「やめてくれ」と言えぬのだ

  おれたちは何べんも脱走した

  何べんも自殺した

  おれたちは兵卒で

  兵卒だということが 一切なのだ

 

  奴はこう言おうとしたのだ

  賢そうな泣きっ面で 返事を求めたのだ

  手を貸してほしかったのだ

  腰を上げてほしかったのだ

  あっちでもこっちでも

  目くばせしたのだ

  賢そうな泣きっ面で

  いっぱいそばへ寄ってきたのだ

 

 

 今朝、人っ子一人いない野を歩きながら考えた。

 第二次世界大戦後、戦争を放棄する平和憲法を持つ日本国民は、戦争につながるすべてを拒否しようと街に繰り出した。アメリカによるベトナム戦争に反対し、労働組合員はデモの隊列で叫んだ。国際反戦デーにも繰り出し、街で市民と腕を組んだ。アフガン戦争にも反対した。ベルリンの壁が崩壊すると歓喜した。

 だが、今、ロシアによるウクライナ侵攻、たくさんのウクライナの女性は国を出て多くの国で避難民となっている。男たちは、踏みとどまって抵抗の戦いを繰り広げている。

 ロシアのトップが、自分の考え、意識、感情によって、権力をいかようにでも振るえる状態では、第三次世界大戦が起きる危険は常にある。

 日本の国内でも反戦の叫びは高まっている。

 だが、反戦の大波は起きているか。