「扇町サロン」第一回 ・テーマ「次世代に誇れる安曇野の景観」<1>



 近くに住んでいる中村さんが我が家にやってきたのは一か月前だった。安曇野市が企画している、市職員による「出前講座」をこの区でもやってもらい、それを入り口にして、みんなでコーヒーを飲みながら語り合う会をつくらないか、中村さんはそう提案した。
それはぼくも大賛成で、「やりましょう」となった。
 中村さんは、「景観、環境」をテーマにした「出前講座」にしたらどうか、と言うから、安曇野の劣化する景観についてはかねてからのぼくの憂いでもあったから、まず第一回はそれをテーマにすることになった。中村さんはなかなか積極的で、とんとんと市役所にも行って段取りを進め、何度も我が家に相談に来て、
「講座に参加する人は10人以上にしてほしいと市が言っていますから、二人で声かけて人を集めましょう。」
となり、ぼくは「扇町コーラス」のメンバーに呼びかけて7人の同意を得、つづいて素晴らしく幻想的な山の絵を描いている佐々木さんや、100キロマラソンに参加している韓国料理店の上松さん、ご主人に先だたれて寂しい一人暮らしの大池さんらに声をかけ、一方中村さんは、千野区長や親しい人たちを誘って、結果は参加者15人を超える見込みになった。もっともっとこの企画を区民に報せ、特に新しく家を建てて引っ越ししてきた人たちをお誘いしたかったけれど、誘うことができなかった。
 お誘いの案内文にこんなことを書いた。

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       「扇町サロン」は、コーヒーを飲みながら、楽しく語らう集まりです。
       人は交流すると元気になり、仲良くなります。
       そこから何かが生まれてくれば、それが地域文化をつくります。
       各回、テーマがあります。関心のある人はどなたでも参加できます。
 第一回テーマは「次世代に誇れる安曇野の景観」です。
 安曇野市には景観条例が定められています。この夏には、「緑の基本計画」の概要版が各戸に配られました。安曇野の風景は、確実に「美観」が衰弱しています。これから30年後、50年後はどうなるでしょうか? 今よりもっとよくなり、暮らす喜びを感じる所になるでしょうか。 
 扇町道祖神桜をつくられた写真家で映像作家の故中沢義直さんは、著書でこう訴えておられます。
 「安曇野のどこでもが美しく牧歌的風景かというと、そうではない。最近は、調和のある安曇野を代表する風景を発見することが難しくなってきた。失われてゆくものが多く、残されるものが少なければ風物は変わってしまう。安曇野という美しい言葉は近い将来に死滅してしまうのではないか。」
 安曇野の実態が、安曇野という名前の持っているイメージとかけ離れていくという危惧です。中沢さんは、自然の美しさを映像に残す仕事に人生をかけられました。
 そこに一本の高木があると美観が変わります。建物も風土に調和すれば、美の要素になります。調和しなければ景観を壊します。美しい音楽のように、ハーモニーとリズムは景観についても重要な要素です。
 緑なす並木は、歩く人に木陰をもたらし、心と身体をいやします。
 雑木林は、子どもらの遊び場になり、草木や昆虫に触れる自然の学び場になります。
 それらは今、私たちの生活空間にどれだけあるでしょうか。
 子どもたちの「美しいふるさと」は、家族との暮らしや、友だちとの自然の中での遊び体験によって、心の中に形成され、生涯にわたって心の中に生き続けます。
 それが安曇野への愛となります。
 扇町サロンにどうぞ、ご参加を! お待ちしています。
 参加くださる人はあらかじめ連絡をいただけると準備に好都合です。

                   つづく