パノプティコンの住人

 ヒトラーはドイツ敗戦間近のベルリン陥落直前に自殺を図る。そのとき、「(ナチズムは私とともに消滅するが)百年後に新たな思想が生まれるだろう。宗教のように新しいナチズムが誕生するだろう。」という予言を残したという。
 ヒトラーはどのように考えてそう言ったのか分からないが、人間社会というものは、人間の頭脳によってつくられていくものだから、そして人間の頭脳はそうそうに変化しないから、必ず社会的に勢力を蓄えるものたちが跋扈し、そのなかのいちばん強いものが社会を支配するようになる。第二のヒトラー登場は必然だ。阻止できる力を社会が人が持たなければそうなる。
 今日知ったのは、「パノプティコン」という言葉だった。新聞朝刊の一面トップの特集記事に、「1強 パノプティコンの住人」とあった。
 その記事解説に「パノプティコン」とは、「権力による社会の管理・統制システム。もともとは監視者がいてもいなくても囚人が監視を意識する監獄施設のことで、20世紀にフランスの哲学者フーコーが、権力による社会の管理・統制システムとして用いた概念。フーコーの専門家である石田英敬・東大教授は、『現代では監獄がなくとも、権力が決めたアジェンダ(課題)にみんなが乗ることで、効率よく統治されてしまう』と指摘する。『1強』のもとで、与野党、官僚、そしてメディアは、『パノプティコンの住人』のように支配されていないだろうか。石田教授は、『まず権力がどう管理・統制しようとしているのか、認識することが、システムから解放される第一歩だ。』と指摘する。
 昔から「右へならえ」が常識化していた。「長いものには巻かれろ」ということわざがあった。「泣く子と地頭には勝てぬ」というのもあった。権力者、ボス、親分には逆らうな、忠良なる臣民になれと、教育勅語にも書かれた。忠義の部下になれ、みんながそう言うからそうしよう、出世のために。異論を吐くな、異議を言うな、それが世渡りのコツだ。
 それでも異議を出す人は絶えない。「パノプティコンの住人」になりたくない。必ず破たんが来る。「(ナチズムは私とともに消滅するが)百年後に新たな思想が生まれるだろう。宗教のように新しいナチズムが誕生するだろう。」ということは、「そしてそれは必ず絶望的な破滅を呼ぶだろう」ということだ。