イーさん <3>



 イーさんの「全句集」を読んでいて、青春時代の俳句と晩年近くの俳句と、変化しているのを感じるけれども、イーさんの俳句の芯は変わらず、感性変わらず。


   おれも揚羽(あげは)この世へちょっと止まりに来て

   灯蛾(ひが)よ俺死ぬときたぶん左向き

   陽の風に靡(なび)く樟若葉死が近し

   深夜の骨俺はここ汝はむこうから噛む

   婚ちかき子よ氷菓は食べるものですよ

   風すさぶ日は一人より二人がよし

   明日ありや湯ぶねにて聞く冬の雨


 高校から大学の時代に彼がつくった俳句は60年たった今も、ぼくの心に残っている。残り続けるということは理屈ではない。文学的にどうのこうのということではない。それらが自然にぼくの心に生き続けているのだ。それを文学という、となればそういうことだ。


   雁一つまよへり北へ首つき出し

   毬(まり)つきの祈りのごとくなりゆきし

   少女よ君の衣の草の実を吾にとらせよ

   羽子(はね)をつく屋根より下は昏れてをり

   哀歓にふれては毛糸編まれけり

   更けし病舎のどこかで甘藷をふかしをり

   どこへ行くにも冬日まとへり看護婦は