1970年35歳のとき、イーさんに長男が生まれ、6カ月後、イーさんの息子は天に昇っていった。別の世界にいたぼくは、そのことも全く知らなかった。
イーさんは1963年に結婚し、1966年に長女、1973年に次女を授かっていることも、今になって知った。「わが友」というには、あまりにはかない関係だった。
耳の中の暮らし石けんたちまち減り
母から妻へ青に溺れて菜をゆがく
句集の1971年後のページに、亡き子を偲ぶ次のような句があった。
死児のこえか枝頭にちかく熟れトマト
銀河に濡れた幼な手父にふれにくる
遠ざかる藁(わら)塚(づか)となりねんねことなり
どこへも来る死児連れ日曜の風の妻
石をもて石打つ生前の死後のこえ
釣ってもつっても会えない青葉ごもりの沼
しろしろと梨剥く二人児へふたつ
きつつきやかすかに死児によぎられおり
にらの穂にひっそりとまた死児が咲く