イーさん <2>



 1970年35歳のとき、イーさんに長男が生まれ、6カ月後、イーさんの息子は天に昇っていった。別の世界にいたぼくは、そのことも全く知らなかった。
 イーさんは1963年に結婚し、1966年に長女、1973年に次女を授かっていることも、今になって知った。「わが友」というには、あまりにはかない関係だった。


   耳の中の暮らし石けんたちまち減り

   母から妻へ青に溺れて菜をゆがく


 句集の1971年後のページに、亡き子を偲ぶ次のような句があった。



   死児のこえか枝頭にちかく熟れトマト

   銀河に濡れた幼な手父にふれにくる

   遠ざかる藁(わら)塚(づか)となりねんねことなり

   どこへも来る死児連れ日曜の風の妻

   石をもて石打つ生前の死後のこえ

   釣ってもつっても会えない青葉ごもりの沼

   しろしろと梨剥く二人児へふたつ

   きつつきやかすかに死児によぎられおり

   にらの穂にひっそりとまた死児が咲く