世界が風雲急を告げている


 明治維新から後、日本はどういう道を歩んできたか、最近そのことが頭をかけめぐる。今朝も午前5時ごろから、うつらうつらしながら、考えていた。欧米の植民地主義に対抗すべく同じ植民地主義に走った日本の歴史、その一本の道。

 世界があやしい。風雲急を告げている、そんな危機感をおぼえる。第一次、第二次の世界大戦と同じ道を世界が歩んでいるような感じがする。偏狭なナショナリズムをかきたて、軍事力にものを言わせ、やがて国が滅ぶ。

 明治維新後の日本は、近代国家の仲間入りするために強固な国家をつくろうと権力支配を厳しくした。その結果、被抑圧、被差別の民が増大する。蝦夷国琉球国、韓国、満州国とつづいた植民地化の茶色い道があり、茶色い戦争があった。
 1609年、薩摩の島津氏は琉球国を征服し、その後、琉球国は島津の支配下にあったが国として存続し、明治5年(1872)に明治政府によって琉球藩とされた。そして1879年の廃藩置県沖縄県にされた。明治政府は軍隊を送っての強権的処分であった。かくして琉球国は滅びた。
 明治初期、自由民権運動がおこった。国会開設、憲法制定、地租(税金)軽減、地方自治などを求めて、民衆の運動は激しさを増していった。
 1871年(明治4)、士農工商埒外に置かれていた被差別の民の解放令が布告され、呼称が新平民にされた。
 1877年(明治10)、民による憲法草案がぞくぞくとつくられた。その数は60を超えた。
 1880年(明治13)、五日市憲法(東京都現あきる野市)は基本的人権の保障を明確に述べていた。
 1881年(明治14)、土佐の植木枝盛が、法の下の平等、言論思想の自由をうたう憲法を考える。
 しかし政府権力は自由民権運動を弾圧する。
 1884年(明治17)、養蚕、製糸を副業としてきた農民が大量に没落。農民一揆秩父事件が起こった。軍隊がこれを鎮圧。
 1880年後半ごろから、足尾銅山から流れ出た鉱毒が川を汚染しはじめ、渡良瀬川流域の田んぼや水が大被害を受ける。しかし銅の生産は国富の要であると、政府は反対運動を弾圧した。1897年(明治30年)、足尾銅山被害農民は大挙東京へ抗議の行動に出る。だが警官隊に鎮圧された。農民の立場に立って闘う田中正造天皇に直訴するが及ばず。
 1889年(明治22)、明治憲法が政府によって制定された。
 1894年(明治27)、朝鮮の支配をめぐって日清が対立、戦争。 
 1904年(明治37)、朝鮮および満州の支配をめぐり日露が対立、戦争。
 1905年(明治38)、日露の講和のポーツマス条約に不満を抱いた民衆暴動が起きた。日本国民の愛国心が攻撃的になっていった。
 1910年(明治43)、韓国併合
 1914年(大正4)、第一次世界大戦に参戦。中国の山東省支配権を獲得するために、ドイツ軍と戦争。
 1922年(大正11)、新平民に呼称が変わっても差別はなくならず、自由と平等の侵害への抗議、差別に対する糾弾を行なう全国水平社が結成され活動を開始。
 

 1922年、『アイヌ神謡集』を著した知里幸恵が19歳の若さで死んだ。死の数カ月前にこんな文章を残していた。
 「時は絶えず流れる。世は限りなく進展してゆく。激しい競争場裏に、敗残の醜をさらしている今の私たちの中からも、いつかは、二人三人でも強いものが出てきたら、進みゆく世と歩をならべる日も、やがて来ましょう。それはほんとうに私たちの切なる望み、明け暮れ祈っていることでございます。」
 詩人、違星北斗ら3人のアイヌ人は、地域を分けて、北海道のアイヌの家を一軒一軒回って薬を売りながら交流をしていった。そのつながりから、「アイヌ一貫同志会」が生まれた。それについて3人の一人辺泥和郎は、
「このような動き方をするようになった裏には、水平社運動の刺激があった」
と語ったという。藤本英夫は、論考にこう書いている。
 「部落民の解放を部落民自身の手でかちとろうとする全国水平社が、社会主義無政府主義の影響のもとに結成されたのは1922年のことである。政府や上層階級による同情的、恩恵的な融和事業に対抗する水平社運動が、心情的にしろアイヌの運動に連帯したことはアイヌ運動にとって画期的なことであったといえる。しかし、アイヌ一貫同志会は、初期の志の形では日の目を見なかった。それは、同志の一人、辺泥和郎が徴兵で入隊、また結核におかされた身体をぎりぎりまで酷使して運動を続けていた北斗が、遂に1929年にたおれたからである。」
 こうして生まれたのが1931年設立の「北海道ウタリ協会」であった。


 1931年(昭和6)、日本、満州に侵略。
 1932年(昭和7)、日本の傀儡国家、満州国を建てる。
 1937年(昭和12)、中国全土に侵略開始、全面戦争はじまる。
 1941年(昭和16)、米英との全面戦争。
 1945年(昭和20)、沖縄焦土と化す。日本滅亡。