ロシア外交官との対話こそが必要だった

 

 

 日本政府は、ロシアのウクライナ侵略に抗議して、在日ロシア大使ら外交官に退去命令を出した。それに対抗してロシアは在露日本大使館員らに退去命令を出した。

 対立感情によって、両者をつなぐパイプが切れていく。こういう事態だからこそ、外交における対話を強化しなくてはならないのに。

 対立関係にある時こそ、抗議だけでなく、「共に考える」という論理を通じて、戦争回避、戦争終結への 道を模索しなければならないのに、「論」の道を、「感情」によって切断してしまう。

 パイプが切れると、何を言っても通じない、コンクリートの壁が立ちはだかる。

 4月29日の朝日新聞オピニオン欄に、歴史学者山室信一氏が書いていた。

 曰く、

 今回のロシアのウクライナへの侵略は、日本が満州事変から敗戦に至る過程と二重写しだと。

 プーチンのめざすユーラシア主義は、日本の大東亜共栄圏構想の満州国建国に重なる。日本は中国に侵略し日中戦争勃発、日本は孤立し国際連盟脱退、そして日独伊三国同盟を結び、崩壊に至った日本の不幸な道。

 ロシアは同じような道を進んでいるではないか。

 そこで日本の戦後民主主義の道を語る。

 日本国憲法、「武力による威嚇、または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを追放する。力による現状変更は許さない。」

 

 そして山室氏は述べる。

 「ゼレンスキー大統領が日本の国会で演説した際、彼は日本に憲法九条があることを意識していたと思う。だから武器援助を求めず、国連改革や戦後復興への尽力を要請したのだ。だが日本の政治家は九条を忘れているように見える。」

 「満州事変を首謀した陸軍の石原莞爾は、第二次世界大戦後、広島と長崎を訪れ、悲惨な現実を見た。そして、核兵器が出現した以上、人類滅亡を避けるためには戦争放棄しかないと言って、憲法九条を支持した。戦争の実態を見て行き着いたのが非戦平和論だった。」

 

 ロシア外交官を放逐するのではなく、日本は日本の悲惨な過去の歴史をロシア外交官に伝えるための、深い意見交流の場こそ必要だった。政治家はそういう場を用意し、山室氏のような人物を起用して、日露の意見交流をするべきだった。