丸山真男の思想

 昨日、ひとつの録画を見た。それはNHKテレビのドキュメンタリー、「戦後史証言プロジェクト」で、何人かの証言によって構成されている。その回の証言者は政治学者、丸山真男だった。
 1945年の敗戦後、日本は民主主義国として国づくりをはじめる。いったい民主主義とは何なんだ。東大教授の政治学者、丸山は、軍隊体験も広島での被爆体験もあった。日本を見つめ、日本の民主主義を追究する丸山の学問は戦後日本に大きな影響を与えた。
 このドキュメンタリーのなかで、丸山が長野で講演をしたことが出てきた。信濃教育会で、彼は講演をしている。1957年、58年の二回。驚きだった。
 いったいどんな講演をしたのだろう。小中学校の教員を相手にどんなことをしゃべったのだろう。
 これは調べる必要があると、思った。
 なぜそう思ったのか、ひとつは丸山真男という人物が長野という地方で講演をしたこと、もうひとつの理由は、戦後69年もたつが国家レベルでも地方レベルでも民主主義が熟成していないという思いがあったからだ。
 ドキュメンタリーは、信濃教育会で話した断片が朗読された。

 「政治に対して無関心、嫌悪の支配するところで、民主政治の実質が否定され、政治家は独裁化し、ボス化する」
 「独裁者は民主主義の敵であり、政治は形骸化される」
 「民主主義の実態は、プロセスを重視する。討論が重視される」
 「権力に対して、常に問いかけること、問い続けることである」

 丸山真男は、教師や民衆に対して、民主主義、自由主義について、定着させていくために何が必要かを具体的に考え実践をした。日本の各地に出かけて、だれにでも、日本について、民主主義について語り、日本の民主主義が育ってほしいと願った。
 永久革命としての民主主義、永久運動としての憲法9条、と丸山は語っている。

 では丸山はいつ信濃教育会で講演したのか。その記録は安曇野の図書館に残っていないか。
 ぼくはまず信濃教育会の地方事務所、安曇野教育会に電話を入れた。 「そちらに雑誌『信濃教育』のバックナンバーはそろっていますか」
 「復刻版があります」
 ぼくはすぐさま教育会の会館へ出向いた。クラシックな西洋建築のりっぱな会館の図書室に、「信濃教育」はあった。
 信濃教育会は明治17年に前身が生まれ、19年に「信濃教育会」となって、長野の教育に大きな足跡を残した。その歴史は、長野の教育に進歩と革新をもたらし、同時にある面保守的なもの、体制化を生んだのではないかと思える。

 丸山の講演記録は1957年8月号と1958年の7月号に掲載されていた。
 57年のテーマは、「思想と政治」、58年は「政治的判断」だった。
 おそらく2時間近い講演だったろう。この丸山の講演を、長野の人たちはどのように聞き、理解しただろう。内容は、レベルの高いものだった。