「日本国憲法第9条をノーベル平和賞に」



 韓国でこんな動きがあるとは知らなかった。
 「日本国憲法第9条をノーベル平和賞に」、韓国の人たちが推薦の声をあげているのだ。
 月刊誌「世界3月号」(岩波書店)に、韓国のジャーナリスト、イ・ブヨン氏が「私たちはなぜ憲法9条をノーベル平和賞に推薦したのか」という手記を書いている。
 2014年12月18日、ソウルで学者、芸術家、政治家、法曹人、市民運動家など50人が記者会見し、憲法9条をノーベル平和賞に推薦する署名運動を行なうと宣言した。推薦文には、「平和憲法は人類の普遍的な願いをこめた教科書であり、日本が民主主義と平和、経済的繁栄を築く礎となった」と述べている。記者会見で、韓国の元首相である李洪九氏は、「植民地時代、南北分断、朝鮮戦争などを経験した韓国の市民が、人類の普遍的な願いが込められた憲法趣旨に賛同して推薦する」と語った。
 ここ数年、日韓の関係はよくない。領土問題で対立、歴史認識慰安婦問題で信頼関係もゆらいでいる。韓国には「反日」、日本には「嫌韓」の偏狭なナショナリズムがくすぶる。そういう時勢にこの動き、韓国で日本を讃えればたちまちバッシングにならないかと思うが、この運動には韓国与野党の政治家も加わっている。イ・ブヨン氏によれば、「安倍政権が改憲に踏み切る恐れがある、そうなれば日本は戦争をする国になる、アジアの平和が脅かされかねないという思いもある」という。
 記者会見の半年前の6月10日に、東京渋谷公会堂で、「九条の会」の講演会が行われた。そこに韓国の市民団体から「連帯のメッセージ」が送られ、参加者はそれを熱烈に歓迎した。一方韓国でも、同じ日に市民団体による「民主抗争27周年記念式典」が開かれ、同じ「連帯のメッセージ」が拍手で採択された。
 そこから日韓の平和連帯、平和協力の議論が始まった。しかし安倍政権は閣議集団的自衛権の行使容認を決定する。局面は一変、韓国国会はただちに糾弾決議を圧倒的多数で通した。
 その後、日本では12月の衆議院選挙で自民党圧勝。
 歴史を振り返る。
 かつて韓国の軍事独裁政権が国民の民主化運動を激しく弾圧していた時代、韓国市民の闘いを支援する献身的な運動が日本で盛んに行われた。1970年代、80年代、ぼくは部落解放教育とともに日本の公立学校における在日韓国・朝鮮人生徒への教育実践創造に取り組んでいた。そうしてまた弾圧される韓国の市民や学生に心を痛めていた。
 南北分断の中に閉ざされ、過酷な軍事独裁政権下で民主化運動や平和統一運動を展開してきた韓国の情況は日本と無関係ではない。それは、日本統治下の激しい独立運動の性質を引き継いでいる。韓国の民主化闘争によって、日本の学者や若者は韓国近現代史への関心を大きくもしたのだ。
 イ・ブヨン氏は、日本の政治家、市民運動家たちと精力的に会って、憲法9条を守るために活動を始めている。
 1月15日、韓国の市民運動ノーベル平和賞委員会に推薦書を送付した。
 「今の時代、強大国だけが、もしくは政府機構だけが国際関係を切り開いていく主人公ではない。日韓の両国間の平和連帯が、東アジアの平和運動の中心になる可能性があり、それが世界史の流れだと確信する時が来た。」
 イ・ブヨン氏は、日本の反原発運動の代表とも会談している。政治とナショナリズムでは対立していても、日本の市民運動と韓国の市民運動は連帯していく。その運動が両国を変え、アジアの国々に東アジア共同体を芽吹かせるだろう。市民の壮大な運動を起こすことができれば、未来展望に希望が生まれるだろう。
 この連帯の運動、もっと知りたい、日本でもっと育てたい。