慰安婦問題を乗り越えていく道<2>


<写真:愛馬の碑だろうか。大東号という名前は馬だろう。軍馬として戦場へ駆り出されたのか>



 ベトナム戦争から帰還したアメリカ兵の中に、精神症状の苦痛を訴える人が大勢現れた。殺すか殺されるかといった生命の危険にさらされると、強いストレスがかかり、それによって心に深い傷を負う。精神に支障をきたすその後遺症は、心的外傷後ストレス障害PTSD)と名づけられた。
 PTSDは、旧日本軍の元兵士の中からも 、年老いてからその症状に悩む人が出てきたり、沖縄戦のなかを生き延びて今は高齢を迎えている民間人にも現れていることが明らかになってきている。阪神淡路大震災東日本大震災の被災者にもPTSDに苦しむ人がいる。
戦場を体験した人の心の傷は、被害の恐怖から発症する場合と、加害の罪の意識に苦しんで発症する場合とがある。戦場から帰還した人の多くが、堅く口をつぐんで語らなかったのは、苦悩、恐怖から来る心の傷があまりにも深かったからだ。だが、沈黙は苦痛の記憶をやわらげはしなかった。心の中に押しとどめていることが精神に負担となった。
 兵士による性暴力を受けた女性は、完全な受身の被害者だった。おぞましいその体験を他者に語り公開することは、場合によっては自分の人生を破壊することにもなるし、心の傷をさらに広げることにもなりかねない。だから、彼女たちは「隠す」ということを続けざるをえなかった。
 韓国の元慰安婦問題についての国会討論を聞いていて、男性議員があまりにも女性の心の傷への理解なしに語られているように思えた。
証言した女性たちは、「隠す」ことをやめて、「隠さない」生き方に転換した。踏みにじられた人間の尊厳を取り戻すために行動することを選んだ。そこにどんな心の葛藤があり、どんな願望があったのか、それは大変勇気のいることだったと思う。
 この問題は、日韓のナショナリズムを刺激している。しかし、この問題の解決をナショナリズムからアプローチして、ナショナリズムをあおる方向へ利用してはならないと思う。なぜなら元慰安婦ジェンダーの問題がふっとぶからだ。世界はいまだ、紛争・対立を解決するために軍事力を行使する。その戦争においては暴力や差別の被害が甚大なものとなる。女性への性的暴力も生まれる。それは厳然とした事実だ。
 国会で取り上げる政治家たちよ。あなたたちは、被害女性たちの悲哀、絶望、痛み、苦悩を、自らの心で感じ取り理解することができるか。そこから解決の道を考えることだ。

 十数年前から中国山西省の山奥の村で、日本人団体が旧日本軍による性暴力の現地調査を行ない、それを記録に残し続けている。聴き取り調査をする日本人たちのたゆまぬ努力と、被害を受けた女性たちを支え続ける心に深く感銘した被害者たちや村人たちは、国の壁を超える人間と人間の関係を作り出していた。活動に関わる日本人は、女性たちにぴったり心で寄り添いながら、その深い悲しみと痛み、つらさを、自らが体験するかのごとく聴き取り、受け入れていたのだった。