人間のエゴの歴史


 

 

  黒部峡谷に「下の黒ビンガ」「上の黒ビンガ」と名付けられている難所がある。「ビンガ」とは何か。それは両岸壁が高くそそり立ち、その間を流れる黒部川は激流となり、深い淵となっているところだ。そこで、両岸が狭くなり、岸壁がそそりたっているところを「上の廊下」「下の廊下」と呼ばれる。

 かつて高須茂がこんなことを書いていた。

 

 「北アルプス剣岳の小窓谷入り口に、大きな岩壁がある。ベンケイ岩とも、ベンテン岩とも呼ばれているが、この語源は、黒部川の岩壁がビンガと呼ばれているのと同じだろう。ベンケイも、ベンテンも、ビンガの転訛である。ビンガはアイヌ語のベンケの変化だろう。アイヌ語のベンケは、『強い、異常な、壮大な、飛び離れた』というような意味を持っている。北陸から関東、東北にアイヌ語が残っているのは、そこがアイヌの故郷だからである。北海道に追い詰められていくアイヌが移動した経路は、アイヌ語の残欠をたどって行けば分かる。

 ベンケイと言えば、武蔵坊弁慶、この義経の郎党もアイヌかもしれない。東北地方を治めた藤原家(3代)には、アイヌの家臣も多くいたに違いない。」

 

 北陸、甲信越、森と山の広がる中に、先住民アイヌが住んでいた。そこに倭(ヤマト)がやってきて王権を確立し、アイヌを北に追い、支配を広げた。そしてそこにまた朝鮮半島から新たな渡来人、高麗、百済新羅などの民がやってきて、倭人とともに国家を形成していった。

    さらにさかのぼれば、日本の国の先住民は、大陸から移り住んできた人たちであった。 歴史をたどれば、世界の国は、移動してきてそこに住みついた人たちから始まっている。このことは周知のことなのに、国家ができて、それぞれが独立した政治を行うようになると、国家意識が強くなって、その国の民は「国民」となった。そして国家意識がますます養成され、国家の支配者が意図する国づくりが行われてきた。

 トランプ氏は意気盛んに言うが、アメリカの歴史をたどれば、アメリカは渡来人の移民による侵略によってつくられたものだ。今アメリカの先住民はどうなっているか。

 世界地図を広げて、ベーリング海峡を見てみると、なんとロシアとアメリカは海峡を挟んで向かい合っているではないか。どうしてこんなところまで、アメリカとロシアは支配権を広げたのか。その地は、その地の先住民が住んでいたところだ。帝国主義国家は貪欲な支配意欲で、今も支配の拡大を図っている。