生徒のやる気



農業高校の農場にある桜の古木



長野県の不登校児童は全国1で、中学生は5番目だという発表があった。
長野県が? 何が原因?
教育県といわれたこともある長野県民にとっては気になる。
国学力テストの結果が出ると、低い県は「原因は何だ、何とかしろ」と対策へ意識が向かう。
けれども全国で何番目という順位なんて、五十歩百歩のことであって、問題は全国共通であり、その根っこは深い。


「学校へ行かない」と「学校へ行けない」は異なる。
前者は登校拒否や怠学(サボタージュ)、意志的な行為であると言える。
後者は、行こうと思っても行けない、心理的な原因がある。
経済的な原因というのもある。
学校という世界が、楽しくてたまらないところなら行きたいと思う。
学校という世界が、知的好奇心をかきたて、満たしてくれるところなら行きたい。
学校という世界が、スポーツ、勉強、遊び、友だちとの交わりなど、何かに熱中できるところだから行きたい。
魅力も湧かず、「行かなければならないところ」という義務感だけなら行きたくない。


高校の場合、高校卒業という資格、学歴を取得しておかなけりゃ社会に出た時不利だ、だから行こうと思う子が多いだろう。
高校の数だけのランクがあるというシステムが生み出している現場の高校生の実態を、文部科学省教育委員会も父母も本当のところは把握していない。
数字のデータで何が分かるか。
報告書で何が分かるか。
授業をやってみないと分からぬ。
高校生一人ひとりと触れ合わないと分からぬ。
彼らはその高校で学ぶことに誇りを持っているか。
学習意欲が喚起できているか。
目的を持っているか。
将来に希望を持っているか。
いったい生き甲斐とは何なんだ。


スポーツ、芸術に打ち込んでいる生徒、
勉強にがんばっている生徒、
技術の習得に励んでいる生徒、
次々直面する困難や問題に失敗し、うちのめされ、
そこからはいあがってチャレンジしていく充実感と緊張感。
そんな生活を味わっている生徒ははたしてどれだけいるだろう。


日本青少年研究所などが日米中韓4か国の高校生を対象に、勉強に関する調査を行った結果についての報道を読んだ。
調査期間は昨年6〜11月、4か国の高校生計6173人を対象に「学習に対する意識」を調査した。
結果は、中国の高校生は学習意欲が最も高く、逆に日本の高校生は授業中居眠りをする割合が最も高かった。
授業中の居眠りを「いつも」または「時々」する割合は日本の高校生が45%で、4か国中最も高い。
日本の高校生は学習と自らの将来をあまり結び付けて考えておらず、意欲も失っている。
反対に中国は居眠りの割合が4.7%で最も低く、積極的な学習態度がうかがえた。
授業中の発言に関しては米国が最多で、中国が2位、日本と韓国は半数近くが「ほとんど発言しない」と回答した。
中でも多くの日本の高校生が、「授業内容が理解できなくてもそのままにしておく」と答えた。
宿題が「あまり好きではない」のは韓国が最多で、日本がその次。


こういう比較調査が発表されると、なるほどそうだろうとうなずく。
政治家や役人さん、
高校の数だけのランクがあるなかの高校で、生徒の中にどっぷりつかって朝から晩まで1週間生活してみなさい。


サッカーの岡田武史監督と精神科医香山リカが対談していた。(「朝日」4・20)


(岡田)戸塚ヨットスクール戸塚宏さんは、脳幹を鍛えるために生きるか死ぬかのドキッとするような刺激が必要だと話している。倉本聰さんも同じようなことを言っていて、今は便利・快適・安全になって、五感からの刺激が少なくなり、脳が活性化せず、人間として判断する力も落ちてきていると。
(香山)現代の生活スタイルが、理性などの高等な精神機能をつかさどる新皮質や、思考、判断、計算機能をもつ前頭葉を使うようでいて、あまり使われていないんじゃないか。
(岡田)私は生きる力が落ちてきて自殺者が3万人もいる国では、豊かすぎて旧皮質とか脳幹とかの力が落ちてきているじゃないかと考えていた。
(香山)生きること自体がつらいという人がいて、呼吸するとか心臓を動かすという、朝起きて今日も一日息をしなきゃいけないと思うと本当につらい、一日心臓を動かすと思うと耐えられないという人がいる。生物としての生存本能とか、生きるという機能自体が下がっている。
(岡田)空中ブランコの1メートル下に安全ネットがある社会だと、あれも危ない、これも危ない、安全に安全にと。ネットは必要だけど、やはり10メートルぐらい下にあったほうがいい。1メートル下にあるから生きる力が落ちてきている。落ちたって大丈夫だと簡単に手を放してしまう。
(香山)経済学者の浜矩子さんは、今の若者はハングリー精神がないからだめだというけれど、人のモチベーションを高めるハングリーと、高めないハングリーがあるんじゃないかと言っている。高度成長期は貧しいし、危険だけれど、がんばればよくなるということがあったから頑張れた。窮地に追い込むとか、ネットを10メートル下に敷けば、よしやるぞと、なれるかというと違う。どうすれば彼らにモチベーションを与えられるか、教育者や心理学者が悩んでいる。」