お灸をすえた


        ひざとお灸

 
ひざにお灸をすえた。
「せんねん灸」という誰でもできる簡単なお灸。
ライターの火を、箸の先端ほどの灸の先に点ける。
細い一本の煙が曲線を描いて、
香りとともに立ちのぼる。
ひざの皿の周りを指でぐりぐり押して、
痛みを感じるところへ、のりのついたお灸をくっつける。


この夏、ランを連れて烏川渓谷を散歩していると、
とつぜん草むらへランが走りこんだ。
その勢いでぼくの身体は一回転、
そのときに痛めたひざが一度治ったかのように見えたが、
散歩の度にランが強く引っ張ったりしたから、
また痛み出した。
いまも歩くときや階段を上る時に痛みが走る。


ガレージの屋根葺きに、はしごを上ったり降りたり、
一段ごとに、ひざが痛い。
しゃがんで釘を打つとき、ひざを曲げられない。
このままほっておいていいかな、
医者に診てもらったほうがよさそうだが、
でも医者に行きたくない、
行けばレントゲンをとったり、なんやかんや、
そして治療費がどっさり。
なんとか自然治癒で治したい。
そこでお灸が登場した。


夕方、左足を伸ばして、ひざを出す。
右より左のひざの方がはるかに太い。
効き足のせいなのか、傷めたせいなのか、
どちらだろう。
ランは、灸をすえるまでは、ひざをなめたり、
匂いをかいだりしている。
煙がただよいだすと、警戒して近寄らない。
離れて見物している。


もぐさが燃え尽きてから、
きゅーっと熱さがやってくる。
皮膚に赤い痕ができる。


今日で三日目、
効いているようで、
効いていないようで、
未だ分からない。


自力で治してやるぞ、
とうぶんお灸をするぞ。