野の不思議


         なぞの正体は?


夜明けの道を横切る黒い生き物、
猫? いや猫より少し大きい。
と、見る間に走り出し、あぜ道を東に向かって、
矢のように疾走していく。
しっぽが長い、なんだあれは。
尋常の速さではない。
キツネにしては小さいけれど、
やっぱりしっぽからしてキツネかもしれん。


庭に植えたキャベツの苗5本。
順調に大きくなり、球をつくった。
青虫を毎日とった。
これはおいしいのが食べれそうだ、と楽しみにしていたら、
ある朝、最も大きな球ともう一つが、
ばりばりと三分の一ほど食べられている。
虫の食べ方ではない。
明らかに動物の食べ方だ。
カラス? たぶん鳥だろう。
そこでキャベツの上に糸を張った。
ところがそれでも食べられている。
鳥ではないか。
五つのうちまともなのは一個だけ。
とうとう網をかぶせた。
いったい何者だろう?


タカオさんの田んぼに入れたアイガモのヒナ、
二十羽のうち五羽がいなくなった。
周囲は網で囲ってある。
どこから逃げたのか。
あるいは何ものかにとられたか。
鳥対策に糸を張り巡らしてあるが、すきをつかれたか。
近くに鷹も営巣しているらしい。
それがまあ、
数日たってからのこと。
タカオさんの田んぼを見学に来た人たちがびっくりした。
あれ、ヒナが三羽、田んぼの横を流れる川で泳いでいるよ。
幅十メートルほどの川、流れは護岸の下にある。
その流れの中を泳いでいた。
囲いの網の下は田んぼの泥の中に差し入れてあるが、
どうもそこに隙間があったみたいだ。
ヒナは冒険の旅に出て、コンクリートブロックの護岸を降り、
川に行ったらしい。
三羽はもどり、二羽は見つからなかった。
タカオさんの話では、
冒険に出たヒナは、
田んぼにいたものたちより大きくなっていたということだ。
何を食べていたのだろう。


あれから数日たち、雨が降り続いている。
川は増水して流れが早い。
梓川を立ち木の流木が流れている。