春の野道


         春の野道


峠の方までフキノトウを採りに行って、
20個ほど採ってきたのを洋子は天ぷらにしてくれた。
おとといは庭の隅に芽を出したフキノトウで作ってくれた焼き飯、
香りもほろ苦さも春の精。
今日、ヒバリがさえずりながら舞い上がり、
しばらく天の一点でホバリングして、
すうっと真下に羽を開いたまま落ちてきた。
下はまだ何もない冬耕の田んぼ、土がくろぐろしめっぽい。
よく見るとあちらにもこちらにもヒバリがいて、巣をつくる準備かな。
昨日はケリを見た。
田んぼの畦で、ケリケリ警戒の甲高い鳴き声を張り上げていた
道の上に降り立ち、ちょちょこ前を行くのは、
セグロセキレイなのか、ハクセキレイなのか、まだよく分からない。
毎日3、4メートル前にやってくるから、
ぼくたちはなじみになった。
草むらでテントウムシが動き、
畑の小松菜に花のつぼみがふくらんでいる。
えんどう豆の蔓がやっと伸びはじめた。
山の落葉樹林が、うす紫にえんじ色、
日ごとに、色がほんのり着いていく。
日曜日、ツクシ採りに来た人が、野の道で倒れている人を見つけた。
いつもの散歩道、
警察がきて、倒れていた人は運ばれていった。
様子を見に来た農婦が言った。
ここは昔から安全なところで、夏の夜の田んぼの水見も、
女一人で大丈夫、
それがなあ、どうしたんですかなあ。
翌朝新聞には、何も載っていなかった。