烈しく胸を打つ10首

 

 

 かつて日本軍国主義が戦争をしていた時代、「反戦」を口にすれば弾圧され、命まで奪われかねなかったあの時代、そのときにも、短歌を詠み、反戦を短歌に訴えた人たちがいた。今、これらの歌を読めば、これは今の時代ではないかと思うほどだ。それだけ現代の世界は、危機的な情況にある。ぼくは数日、膨大な「昭和万葉集」(講談社)の戦争の時代の短歌を呼んでいる。あの時代がそくそくと伝わってくる。

 

 

  十年前 この教室に教へたる児童は

  おおかた戦線にあり          平松文平

 

  わが出征を送りくれし教え子の戦死して

  遺骨帰り来たりぬ           大久保福太郎

 

  戦(いくさ)に行く弟よ 

  亡き父の墓辺の石を拾いて行きぬ    加藤明治

  

  新聞はあれど 知りたき真相は

  知るよしもなき世にてありけり     石川武

 

  滅びゆく祖国の果てを予言せし

  愛国の人 エレミヤあはれ       石川武美 

 

  狂ほえる世界の凶暴のまえに立ちて

  誰ぞ これを阻むものは        南原繁

 

  祖国の上に いよいよ迫り来たらんもの

  われは思ひて いをし寝られず     南原繁 

 

  五ヶ年に三百万の人命をたちて

  かち得しものは何か          尾崎咢堂

 

  共栄を口には言へど 

  わが国の今行く道は 共倒れの道    尾崎咢堂

 

 

  「愛国の人 エレミヤ」とは?

 「旧約聖書の大予言者、エルサレムの人。宗教がいたずらに形式化し、中央集権化し、儀式化していくのを見て、心情における人格的、個人的な関係こそが宗教の本質であることを説いた。災厄をとおして神と新しき永遠の契約を結ぶという思想で、この思想がイエスにつながったという。」