反戦、非戦、いろいろな考えが出ているが、ロシアでそれを出せば弾圧を受けるだろう。ウクライナで出せば、「祖国を守らねばならない」という声が返ってくるだろう。
国土を破壊し、命を奪い、難民を出しても、国の統治者の意志が変わらぬ限り、戦闘はつづき、エスカレートしていく。
日本には、短歌という文化があり、庶民の誰もが歌える。
戦場にも、帰還した兵にも、待っていた親にも歌があった。これはすごいことだ。
1945年、日本の敗戦で生き残り、故郷に帰還した人たちの歌がある。生き残ることができたから生まれた歌。昭和万葉集から。
☆ ☆ ☆
つつがなく帰りきしかば 老い母は吾の背中を洗ひたまえり
矢島祐利
(召集を受けて戦地に行った息子が無事に帰ってきたのだ。)
父さんと駆駆け寄りくる愛(いと)し子に 胸せまりきて声とはならず
守住徳太郎
敗れたる軍(いくさ)の中に病み病みて 衰へ果てて夫は帰りぬ
大岡亮
よりそへば体愛(いと)しく匂ふなり たしかに夫(つま)は帰りきませり
三宅千代
戦友(とも)あまたを人間魚雷に死なしめて 帰れる吾児(あこ)は多く語らず
菅原俊治
待ち待ちし弟 還(かえ)れり 汝が横に今宵はいねむ 老いにし母と
武川忠一
帰還せる めしひの友の手を握り 吾が慰めは言葉とならず
松山哲夫
(「めしひ」すなわち盲目になってしまっていたのだ。)
妻とゐる夜半(よは)に おののけり 左掌にまさしく銃の油匂ひつ
(戦場の恐怖が、夜中によみがえるのだ。 )