ランの命が尽きようとしている。
35度の酷暑のつづくなか、
なんとか耐えていたが、
今は水をのまず、食べ物を口にせず、ときどき悲鳴のような声を上げて、
助けを呼ぶような、苦しみの声を出す。
夜中も、二時間おきぐらいに、声を発し、
そのつど僕は起きていって、外に連れだし、トイレをうながすが、
そぼ降る雨のなか、庭の木立の間へ、
弱りはてた後ろ足で、よたよたと入って行く。
だが、何も出るものはない。
もう二日間、
ドッグフードも食べず、
好きな肉の缶詰も欲しがらず、
妻がおかゆをつくってやったが、
ほんのちょっと口にしただけ。
ときどき、グエ、グエと、口から粘液を吐く。
ぐるぐる、土間を回る。
16歳、人間なら80歳か90歳か。
とうとうランの寿命が尽きるか。
食いしん坊のランが、
がつがつと食べていたランが、
もう食べようとしない。
この盆に、孫娘たちが、ランに会いに行きたいと、
明石から電話で言ってきた。
「死んだらあかん、死んだらあかん。」
だが今、
「県境を越える旅行はストップ」
「外出は控えてください」
コロナがストップをかけた。
「スイカなら食べるかもしれない、
スイカを買ってきてやろうか」、
妻が言う。
ランは元気な時、スイカが大好きだった。
その時が近づいている。