ランの命

f:id:michimasa1937:20140719163656j:plain

 

 

ランの命が尽きようとしている。

35度の酷暑のつづくなか、

なんとか耐えていたが、

今は水をのまず、食べ物を口にせず、ときどき悲鳴のような声を上げて、

助けを呼ぶような、苦しみの声を出す。

夜中も、二時間おきぐらいに、声を発し、

そのつど僕は起きていって、外に連れだし、トイレをうながすが、

そぼ降る雨のなか、庭の木立の間へ、

弱りはてた後ろ足で、よたよたと入って行く。

だが、何も出るものはない。

もう二日間、

ドッグフードも食べず、

好きな肉の缶詰も欲しがらず、

妻がおかゆをつくってやったが、

ほんのちょっと口にしただけ。

ときどき、グエ、グエと、口から粘液を吐く。

ぐるぐる、土間を回る。

16歳、人間なら80歳か90歳か。

とうとうランの寿命が尽きるか。

食いしん坊のランが、

がつがつと食べていたランが、

もう食べようとしない。

この盆に、孫娘たちが、ランに会いに行きたいと、

明石から電話で言ってきた。

「死んだらあかん、死んだらあかん。」

だが今、

「県境を越える旅行はストップ」

「外出は控えてください」

コロナがストップをかけた。

 

「スイカなら食べるかもしれない、

イカを買ってきてやろうか」、

妻が言う。

ランは元気な時、スイカが大好きだった。

 

その時が近づいている。