おう、もう少しで気づかずに通り過ぎるところだったよ。
頭は他のことを考えていたよ。
頭が何かにとらわれていると、見れども見えずだな。
アスファルトの農道をカタツムリが横断している。
両側は草むら、カタツムリは左の草むらから右の草むらへ移動しておった。
踏まれるなよ、轢かれるなよ。
四月になったというのに、おとといは雪もちらちらと舞って、冷えたねえ。
薄氷の張る天気があるかと思えば、今日は一時間も歩けば汗ばむほどだ。
昨日は大嵐だったが、今朝はからりと晴れて、
カタツムリが歩むし、
ラッパ水仙もしゃきっと咲いているし、
ツバメもかろやかに舞っているぞ。
おう、ツバメ、ツバメ。
今年二回めに見たツバメ、氷点下になる日もあるけれど、
大丈夫かあ。
よう来たな、よう来たな。
凍えなかったか。
カモ池のカモは、まだたくさん残っていて、
昼は昼寝をして、北の国へ帰るときを待っている。
たらふく食っていけよ。
旅は長いぞ。
カタツムリも、ツバメも、
カモも、水仙も、
おまえたち、いらんこと考えないね。
人間というやつは、いらんこと考えるからなあ。
いらんこと考えて、
つまらんことにとらわれて、
見る眼も鈍って、
聴く耳も鈍って、
五感が鈍磨する。
心もやせる。
やっかいな動物よ。