「子どもの村中学校アカデミー」の「プロジェクト」は、人間が生きる上でもっとも基本的な営みから題材をとり、少なくとも一年間、広く深く学ぶ体験学習で、毎週11時間がこれに当てられる。「アカデミー」というクラスには担任がいない。活動計画は自分たちで立てる。担任はいないが、活動を支える「影の大人」がいる。しかし、基本的には何でも中学生だけでしなければならない。「プロジェクト」は木工、米作り、演劇、ビオトープづくりなど、これによってクラスが分かれる。小学生中学生は、週に一回集まって、全校ミーティングを行なう。そこでは少数派の意見も重視される。
旅行にはよく行く。クラス旅行、国内修学旅行、イギリス修学旅行などがある。イギリス修学旅行も行きたい所は自分たちで決める。スコットランド、アイルランドに行くこともある。
「消えた村研究プロジェクト」では、なぜ村が消えたのか、その村の暮らし、歴史、文化を現地に行って聞き取りなどしながら調べる。この活動は、全国をくまなく歩いて調べた民俗学者の宮本常一の研究を思い起こさせる。
子どもたちは、まず自分たちの住んでいる勝山市から消えた村を調べた。北谷町は明治44年では人口が3600人だった。それが今は300人、その中の「中野俣集落」は0人になり廃村になった。
かつての中野俣の産業は、炭焼き、養蚕、稲作、わら細工などで、冬場は出稼ぎに出ていた。子どもも労働に従事した。小学4年生5年生の女の子が、背よりも高い炭を背負って何キロメートルも山道を運んだ。「子守り」も小学生の仕事だった。佃煮屋に売る山のフキ取りも仕事だった。
方言も調べる。生活用具も調べる。いろりの研究、伝統行事の研究などをやっていくなかで、村が消えていく原因を探っていく。なぜ過疎が起きるのか。過疎が始まるのは1955年頃からだった。国の経済成長に連れて若者が村を出ていった。エネルギー革命が始まると、石炭燃料は石油、天然ガスに変わり、木炭は売れなくなった。村の生産物、木材、穀物も売れない。
調査、聞き取りをしながら子どもたちは考える。どうしたら村を残せるか。若者が村にとどまって生活するにはそこに生きることの誇りや魅力を感じる仕事が必要だ。行政はどんな支援をしてきたか。
子どもたちはさらに他の廃村を研究する。1963年に消えた野向町は、雪崩によって死者が出た豪雪が原因になっていた。三つ目の村は西谷村の集落。1955年のときは3436人の人口だった。そこは福井でももっとも雪や雨が多いところだった。峡谷で閉ざされ災害が多い。そこにダム建設が始まる。そして水没。子どもたちはその村には伝統の祭りや踊り、食生活もあり、平家の落人伝説もあったことを調べた。
岐阜県徳山村も調査した。ここはダム建設で水没した。滋賀県脇ヶ畑村、奈良県吉野郡上北山村東ノ川も現地へ行って調べた。東ノ川は林業が盛んだった。木材の搬出は川のいかだ流しだった。ここは水力発電のダム建設で消えた。
これらの現地調査を経て、子どもたちは考えた。
村が消える原因として、「仕事・産業が無くなったこと」、「自然災害が生活に打撃を与えたこと」、ダム建設が行なわれたこと」、「村が奥地にあって交通が困難だったこと」、「子どもの進路・進学就職が閉ざされていたこと」、「若者が出ていって高齢化が進んだこと」などを子どもたちはあげている。
そこから子どもたちは考える。「村を残すべきか」
日本は外国から食糧、材木、原油などを多く輸入している。日本の食糧の60%が輸入である。農山漁村が消えると、日本の食糧生産はさらに少なくなる。これは重大な食糧問題となる。また村が消えることは、文化が失われることだ。村の生活は、そのものが文化である。一人ひとりの村民の生を大切にすることを考えなければならない。
さらに子どもたちは考える。「過疎は止められるか」
過疎の村でも、過疎の村ならではの特産品をつくって仕事を生みだし、村を活性化させているところがある。また古い町並みや景観を観光名所にしているところもある。
勝山の過疎対策は、勝山の特色を活かしたものである。勝山は恐竜の化石産出が日本一で、恐竜博物館をつくり、世界から人を呼んでいる。スキー施設も充実させた。サバの「なれずし」も名物になった。過疎地の空き家を利用して、「古民家再生プロジェクトを立ち上げ、都会から人を呼ぶ。「子どもの村」も廃校を利用して生まれた。
子どもたちは、「人間の心の問題」についても考えた。
昔からの村は、「ムラ社会」とも言われる。以前からのしきたりを持ち、自分たちは正しいと思っているから、新たに移住してきた人たちの考えを受け入れないところがある。そのために、「ムラ社会」を避けて村を出ていく人もいる。
また、「農山村再生『限界集落』問題を超えて」(小田切徳美 岩波書店)には、山村地域の住民が、村に住み続ける意味や誇りを失いつつある「心の過疎」の存在を紹介している。「復刻版 村の若者たち」(宮本常一 家の光協会)は、村にいることの孤独感について紹介している。地域再生や若い人に来てもらうという活動も、この住民の心の問題を抜きにしては進んでいかない。
彼らはこう結論付けている。
現状では過疎を止めるのが難しい地域も多く、いくら対策しても消えていく村もある。
ではどうしたらいいのか。子どもたちはここから、日本という国を視座に考え続けていくだろう。
そういう子どもが、この小さな学園から育っている。教育にたずさわっている教員はぜひこの本を読んでほしい。