宇宙と地球と生命の間



今年も送ってきてくれたよ、と家内が、職場まで転送してくれた。
マサコさんの手紙を添えたイカナゴくぎ煮だ。
イナカゴのくぎ煮と一緒に、家内の手作り天然酵母パンと我が家の庭の野菜、野で摘んだフキノトウやらを入れた宅配便だ。
食欲そそる春の便り。
マサコさんの手紙が魅力的で良かった。 
梅の花も満開の今日この頃、お元気にお過ごしでしょうか。
昨年のイカナゴの不漁で、今年もどうかと心配していましたが、2月27日の解禁日から、漁も好調のようで、ひとまず安堵しました。
イカナゴは、全国どこでもとれるものですが、
このあたりでは、明石海峡の鹿ノ瀬というところが、『天然のいけす』『海の穀倉地帯』と呼ばれ、
日本有数の好漁場で、
しかも解禁後15日間、いわゆる一汐(ひとしお)の間にとれたものが、
いちばん旨いとされています。
一汐と言えば、15年前の阪神淡路大震災の時は、これまでに見たことのないような満月の日でした。
先日のチリ地震も、満月に近い日であったように思います。
生物の営みにも大きな影響を及ぼす汐の満ち引き、
心していると面白いことに気付くことがあるかもしれませんね。」


その後にマサコさんは、不況の中でがんばって生活している息子さんたちの消息を書いて、
「何がいいのかわかりませんが、元気で今年もイカナゴを炊けることを感謝したいと思います。」
と結んでおられた。
マサコさん手作りのイカナゴくぎ煮、あつあつのご飯にのせて食べるとおいしい。
ありがとう、マサコさん。
文章にもひかれるものがある。
宇宙と地球の自然界の連関、それと人間の暮らしのつながりがうかがわれるからで……。
けれども、分からない部分がある。
「解禁後15日間、いわゆる一汐(ひとしお)の間」とあるが、その15日間を「一汐」と呼ぶのだろうか。
阪神淡路大震災の時の地震が満月の時だったというのと合わせて考えると、
満月の時から15日が「一汐」ということだろうか。
その間に獲れるイカナゴがいちばんおいしいということだろうか。


「一汐」という言葉は広辞苑を引いても載っていない。
海産物の塩の仕方で「一汐」という語が出てくるが、潮の満ち干に関係する言葉にはない。
イカナゴ漁は、魚の生育を見定めて、獲ってもよい日を相談して解禁日とする。
解禁日、漁師たちは満を持して船を出す。
その解禁日が潮の満ち干とどう関係しているのか。
いろいろ調べていると、こんなことが分かった。
瀬戸内に春を告げるイカナゴの新子の群れが瀬戸内の潮目に集まる。
船曳網の船団がこの群れを追う。
神戸あたりでは、イカナゴの新子のくぎ煮を炊く家庭がたくさんある。
イカナゴは水面を泳ぐ。
小さいものを小女子(こうなご)、大きいものを大女子(おおなご)という字をあてる地方もある。
イカナゴは、全長3〜7cmぐらい。
イカナゴ」の名前の由来は、「いかなる魚の子なりや」、何の魚の子か判らなかったことからイカナゴと呼ばれるようになったとか。
月と太陽が同じ方向にある新月のころと、反対方向にある満月のころは、月と太陽の起潮力が重なるため、大潮となる。
上弦および下弦の月のころは、月と太陽が直角の方向になるので、互いの起潮力が打ち消し合い、干満の差が小さい小潮となる。
「魚の餌(えさ)となるプランクトンは、潮流で流されるために、潮時によって漁獲量が変動する。
流れがほとんど停止する満潮・干潮には、魚があまり釣れないことが多い。」
「フグ類の産卵場は沿岸域で、クサフグやヒガンフグは大潮の前後に海岸へ大群で押し寄せて産卵する。
トラフグの産卵は、沿岸の潮流の速い所で行なわれ、関門海峡はかつて産卵場として知られていた。」

少しばかり、満潮と干潮と、漁とのかかわりがあることが分かった。
けれど謎は残ったまま。
謎は残るがマサコさんの手紙にひかれる。
それは、宇宙と地球と生命の間には、深い深い関係があり、
それが人間の暮らしにもかかわっているからなのだ。