
朝日新聞1月8日、「一皿から見える世界」という欄に、「ウクライナのハチミツ」という記事が載っていた。
ヒマワリなどの蜜源植物が豊富なウクライナは、世界有数の蜂蜜の生産国だ。人口の1.5パーセントが養蜂業に従事している。輸出量は世界トップクラス。だが、ロシアによる侵攻は大きな打撃をもたらした。ハチは寒さに弱く、巣箱の温度は常に一定に保たなければならないのに、発電所が攻撃されて停電になった。そこへもってきて男性が軍に動員されて、女性が養蜂をしなければならなくなった。さらに輸出するための港も破壊され、ポーランドやルーマニアの港から輸出している。ウクライナから日本への輸入は、国別では8位。ウクライナの蜂蜜を輸入してきた京都の金市商店は、売り上げをウクライナに寄付しているという。
「灰色のミツバチ」(アンドレイ・クルコフ 沼野恭子訳)に書いている。
ミツバチは空襲警報に反応する。ハチは、とても敏感な生き物で、不安を感じると飛び回る。ドンパスで暮らしていたセルゲ―イチはミツバチを連れて車で出発した。これから行くところには、空襲はなく、人目に付かない静かなところ、そこでテントを張り、巣箱を下ろすことができる。
セルゲ―イチは、ふと何年も前に養蜂家大会で親しくなった、クリミア・タタール人のアイテムを思い出した。タタール人はもてなし上手だという話だ。宗教は俺達と違うけど、きっと受け入れてくれるだろう。テントを張り、巣箱を置く場所さえあれば、それで十分だ。クリミアには野原も森も山もある。空気も素晴らしい。クリミア・タタール人は、どんな家族も喜んで受け入れてくれるだろう。ミツバチはなおさらだ。クリミアと言うたびに感じるのは、この半島のハチ蜜の味だ。
セルゲ―イチには今や、ミツバチ以外に家族はいない。ミツバチはクリミアが気に入ったみたいだ。ブンブン言っている。ここはいいところで、平和だ。
クリミア半島の先住民、タタール人は、スターリンによって中央アジアへ強制移住させられた。その後、ソビエト連邦が崩壊しロシアになり、クリミア・タタール人がクリミアに帰還するのは1980年代からだった。ところが、2014年、ロシアは、ウクライナのマイダン革命の混乱に乗じて、クリミアを併合した。さらにドンパスとルガンスクが、それぞれ独立を宣言して、親ロシアの人民共和国を名乗ったために、ドンパスで、親ロシア分離主義勢力とウクライナ軍との間で戦闘が起きた。クリミア・タタール人は、またもや差別を受けるようになった。
セルゲ―イチは、このクリミア・タタール人の一家と助け合いながら、ミツバチと蜂蜜を共通の言語にして無事に暮らしているだろうか。