子どもの遊び研究


    研究(3)探偵ごっこ

 男の子はスリルのある遊びを好む。スリルのある遊びは、体を躍動させ、全身の働きを活発にし、頭脳も体力も成長が促進される。
 高度経済成長とともに商業主義が子どもを標的にし、おもちゃ、ゲーム、スポーツ用具などをじゃんじゃん開発した。発売されるそれらは子どもをとりこにした。そうしてスリルある外遊びをする子どものワンパク集団は崩壊していった。子どもたちが自分たちで考え、自分たちで生み出していく遊びも衰退の一途をたどった。過去から延々と子ども社会に受け継がれてきた子ども遊びは、「絶滅危惧種」だ。
 「探偵ごっこ」を最後に見たのは、20数年前だった。
 大阪の平野中学校に勤務していたとき、めずらしく昔のようなワンパク子ども軍団がいた。あるクラスの男子グループで、中心になっているのが典型的なガキ大将だった。ガキ大将は、大人が設定する枠に縛られないで行動しようとする。仲間と遊びほうけるその集中度は半端ではない。熱中してはめをはずす。ガキ大将はリーダーシップを発揮してグループをまとめ、団結力はなかなか強い。
 「絶滅危惧種」の彼らは昼休みなると、大急ぎで弁当をかきこみ、グランドに出て「探偵」を始めた。校庭には他の生徒も遊んでいる。グループは、まず「ぐっぱー」でグループを探偵とドロボウの二つに分け、探偵たちは自分たちの基地を決める。ドロボウたちは、学校のなかをあちこちに逃げて散らばる。探偵たちはドロボウを追いかける。つかまえるとき相手の背中を手でぽんぽんと3回たたけば逮捕だ。捕虜は基地に連れてこられてつながれる。一人目の捕虜は基地に手を触れていなければならない。捕虜が次々増えてくると手をつないで一列になり、ドロボウ仲間が救出に来てくれるのを待つ。探偵たちは、捕まえに行くものと、捕虜を奪還されないように守るものとに分かれて、眼を光らせ、攻撃と警戒を怠らない。ドロボウたちは、探偵たちを警戒しながら、捕虜を救出しようと虎視眈々と動き回る。警護が薄いと見るや、隙を見て走り寄って、基点につながれた捕虜の手をぽんと自分の手で切る。鎖を切られた捕虜は脱走して韋駄天のごとく走る。
 この勝負はドロボウが全員つかまって終わる。そして攻守交替となる。
 昔はこの遊びは、地域の小学生たちの野遊びだった。
 このときの「絶滅危惧種」の「探偵ごっこ」はどうなったか。ぼくは興味津々、職員室から観察していた。
 逃げ場を失ったドロボウの一人が体育館から校舎に通じる渡り廊下の柱をよじのぼりはじめた。屋根に上る気だ。足を校舎の壁につっかえながら、彼は屋根にはい上がった。それを見た探偵のガキ大将は自分も屋根によじのぼり、屋根の上を追いかけ出した。これはもう絶対担任も黙っているわけにはいかないぞ。担任の若い上野先生は、みずから男子生徒のガキ大将のような先生で、ヤンチャにたいしては大目にみる人だが、これはちょっと注意が必要だ。彼らは学校全体をフィールドにして追跡逃亡を繰り広げている。でも午後の授業開始のチャイムがなると終わりとなった。上野先生は、こらー、おまえら、あんまり無茶すんなあ、と注意した。
 上野先生もガキ大将だから、ワンパク連中も元気がいい。それ以前に、いたずら好きのこのクラスの生徒たちが教室の入り口をバリケード封鎖して上野先生を入れなくしたことがあった。だが上野先生はへっちゃら、廊下側の教室の窓を開けるや、長い足を伸ばして教室に乗り込み、こらあーと一喝。担任もガキ大将も「絶滅危惧種」のなつかしいクラスだった。
 この遊びは、どんな働きがあったか。
 「・思考力を働かせ作戦を立てて行動する。・グループが連携して行動する。・敵に悟られないように感覚を研ぎ澄ます。・体全体を動かし全力を発揮する。・緊張しスリルを味わう。」
 実に総合的な遊びであった。
子どもの外遊は貴重な文化遺産である。