最近、感銘を受けたTV映像。今は桜美林大学の客員教授だが、フリーランスの写真家である桃井和馬氏は、1980年、27歳から世界を旅し、写真を撮った。訪れた国は、40カ国を超える。桃井さんは、プロテスタントの牧師の子だった。彼は、世界の紛争地帯に入って、その地の実態を目の当たりにした。フツ族とクツ族が殺し合うルワンダ、米軍の攻撃するイラクにも入った。環境破壊地にも入った。ボルネオ、カリマンタンの熱帯ジャングル、2億年の地球史の中で生まれた森の樹が切り倒され、日本へ送られていく。その材木は、日本でコンクリートの型枠になる。サバンナのアカシアの木と人間は、助け助けられの関係にあり、なくてはならないもの、それが伐られていく。いったい人間とは何者なのだ。それから桃井さんは、人間の祈りの写真を撮り始めた。
日本人は、今の若者は、本当の体験をしているか、世界を知っているか、桃井さんは問う。そして桃井さんは大学でキリスト教文化論の講義をすることになった。学生たち、若者たちを見て、桃井さんは、「彼らは地球を感じることがない、本当の知識はスマホで撮ることでは得られない」と思う。地球の吐息を感じる人間になってほしい、ホンモノの体験をしてほしい、そうして社会に出てほしい。
そこで桃井さんは考えた。学生たちにホンモノの体験をさせたい。そうして始めたのが、スペイン、サンチャゴコンポステイラ大聖堂をめざす、長い長い巡礼の道を歩く体験だった。生きる道に迷っている人、自分を変えたいと思っている人、地球を感じたいと思っている人、そういう学生に呼びかけた。
そうして志望した12人の学生たちを連れて、40日間、900キロメートルに及ぶ巡礼の道の旅に出た。360度、地平線を見渡す大平原。朝日が地平線から出て、西の地平線に沈む。一日に25キロから40キロメートル歩く。朝日に照らされ、夕映えの中を歩く。痛む脚を引きずりながら歩き続ける。
人間は、水、食物がなくなれば、空腹になれば対立を始める。どうしたら冷静さを保ち、戦争をなくし、この地球を守れるか。巡礼の道の途中の宿で、学生たちは自分という人間のありのままを感じ、見つめ、考える。そうして地球の吐息を感じながら目的地に到達した。サンチャゴコンポステイラ大聖堂。彼らはこの長い長い体験を通して、人間を、自分を、日本を、世界を、地球を考えた。
一時間に及ぶ記録映像、この貴重な感動的な映像を、教育に関係している人たちに是非、観てほしいと思う。