「月を指せば指を認む」



 

 12月28日の朝日新聞の「天声人語」、限られた字数で伝えたい想いが簡潔な文章表現に現れ、それ故、伝わってくるものがある。その文章の要旨を、ここに記したい。

 

 

 「どうか月を見てください。月を指す指ではなく」。

 オランダ・ハーグで開かれた国際刑事裁判所ICC)の赤根智子所長が、年次総会で繰り返した言葉が心に残った。「月を指せば指を認む」は、仏教由来のたとえ。目に入るものばかりに心がとらわれて、本質を理解しないという意味だ。

 「異常な状況について話します」で始まった赤根さんの演説は、緊張感に満ちていた。ICC職員への攻撃や圧力があること、職務を忠実かつ勤勉に遂行したために深刻な脅しを受けていること。私たちは「法律にのみ従う」覚悟であること。

 こうした状況の原因が、プーチン大統領やネタニヤフ首相への逮捕状にあるのは明らかだ。ロシア政府は反発し、赤根さんらを指名手配した。

 イスラエルを支持するアメリカ議会にも、経済制裁を科す動きがある。

 ウクライナとガザで続く戦争で、国際司法は新たな危機を迎えたのだ。124の国・地域が加盟する国際刑事裁判所が、公然と批判され、脅かされる事態なのだ。脅しているのはICC非加盟とはいえ、国連安保理常任理事国である。

 個人の戦争責任を問う。国際社会が裁く。そのために22年前、ICCが設立された。

 二つの大戦後の模索を経てできた仕組みが存立の危機にある。赤根さんが、見てほしいと訴えた「月」は戦争犯罪であり、人道主義の侵害であり、それらを裁くための法の支配であろう。

 

 「天声人語」を要約したが、赤根智子所長が、年次総会で繰り返した言葉は、優雅であるか深い意味をもつ。支配欲求にかられる者たち、プーチンやネタニヤフには、とどくことかない。理解もされないだろう。国連安保理常任理事国の国が、己の武力で、平然と侵略行為を続け、人を殺している。彼らは力で相手を屈服させることのみが正義だ。倫理は、通用しない。