食べたことがあるもの


フクジュソウ 


シカ(鹿)が増えて、森の木々をかじって枯らしてしまうのが増えているんだね。
奈良県和歌山県にまたがって、大台ケ原山という深い山があるんだ。
日本一雨の多い山だから、木々がうっそうと生い茂り、谷は深く、
今から100年余り前、明治の時代の終わりごろに、最後のニホンオオカミがとらえられたのも、この山の続きだった。
それ以後、ニホンオオカミが絶滅してしまった。
それまで日本の各地の山にいたニホンオオカミがいなったからかな、シカが増えてきたと言われているね。
オオカミはシカをえさにしていたからね。


最近、シカをつかまえて、その肉を食べよう、
そうすれば森の木が守れるし、シカの肉を食料にも使えるし、名案じゃないか、という意見が出てきて、
ある町で、レストランのシェフに頼んでシカ肉のいろいろな料理を作ってもらったんだって。
そうして、招待した人たちに、いろんなメニューを食べてもらった。
「食べてみて、どうでしたか。」
放送記者が、食べた人に質問してみたら、
「くさみもないし、やわらかかったです。」
そう答えた人が多かったと、テレビでアナウンサーは話していたんだよ。


ぼくはそれを聞いて、
「おいしかったのかな、おいしくなかったのかな、どっちだったんだろう」
と思った。
シカの肉をはじめて食べた、ある人は、
「おっ、これはいける、なかなかおいしいよ。」
と思った。
別の人は、
「うーん、牛肉ほどではないね、でもまあまあかな。」
と思った。
「もうひとつだね。食べなれてないからね。」
と思った。
おいしいと答えた人と、おいしいとは言わなかった人と、様々だったのだろう、
だから放送では、味のことは何も言わなかったのかな。


そこからいろいろ考えたんだよ。
テレビでは、
「くさみもないし、やわらかかったです。」
と、食べた人が言っていた。
「くさみ」というのは、においだね。
いいにおいは、「くさい」と言わないから、「くさみ」というのは、いい感じがしないにおいだね。
ふだん食べている牛肉、豚肉、鶏肉にも、においがあるんだよ。
だけど「くさい」においではないね。
食べなれているから、においはあまり気にならないということもあるだろうね。
シカは野生の動物だから、たぶん強いにおいがあると、想像するだろう?
だから料理をするときに、シェフは「くさみ」を消すように工夫していると思うんだ。
それで、「くさみ」がなかった。
「やわらかかった」というのも、野生動物だから、かたい肉だろうと想像するからね。
食べてみたら、案外やわらかかった。
これも料理の仕方が、上手だったのかもしれないね。
では、「おいしかった」という感想はどうだったの。
ぼくは、「おいしい」という味の感覚は、いちばん個人差が大きいと思うんだね。
一人ひとり、ちがう。ちがいが、いろいろある。
肉が好きで、肉をよく食べる人と、そうでない人と、感じ方がちがう。
だから、「シカ肉を食べてみて、どうでしたか」の答に、
「おいしい」「まあまあ」「もうひとつ」「あまりおいしくなかった」
いろいろあったんだろうな、とぼくは想像したんだよ。
人は、一人ひとり感じ方の基準をもっている。
「くさみ」と「かたさ」の基準は、個人差があまり大きくはないだろうね。
「くさい」と感じることは、同じように感じる人が多いし、
「かたい」と感じる場合も、個人差はあっても、共通する点がある。
でも、「おいしい」の感覚は、それよりも差が大きいと思うんだ。


ところでね、みんなはどんな動物を食べたことがある?
牛、豚、鶏、それ以外で。
ぼくは数えてみた。
馬、水牛、イノシシ、ウサギ、アヒル、カモ、シカ、カエル、スッポン、ハチの子、カイコのサナギ、
マムシ
陸上の動物ではそんなところかな。
水中の動物となると、もっと多くなるね。
植物も、たくさんだねえ。
野菜とくだもの、何を食べているか、名前で知っているかい。
すべてに名前があるんだから、
その命をいただいているんだから、
名前を知って、あなたの命を「いただきます」と、感謝して、食べてほしいよ。
食べられるものの側から考えてごらん。
私の命を、あなたにあげます、とプレゼントしてくれているんだから。