夏山


夏休みが来ると、どどっと訪れる解放感と共に、
山の呼ぶ声がしきりにした。
山仲間と登る山、
生徒と登る山、
かつての教え子と登る山、
同僚教師と登る山。
今年はどこに登ろうか、
山々の姿を思い浮かべながら計画を立てる楽しさ。


夏山には夏山の、冬山には冬山の魅力がある。
夏山のきらめく魅力、それは命の輝き。
紺碧の空、岩ツバメ舞う岩峰、
ちんちんと広がる雲海の彼方に沈む夕日、
闇に輝く星の饗宴。
岩をかんで流れる水を浴びながらの沢登り。


乾いた麓の道を、じりじり日に焼かれながら歩いた。
グーイグーイ、一歩一歩、押し上げるように、
ゆっくり樹林地帯の急坂を登った。
背中にぴったりくっついたキスリングザックの、
背から腰、腰から脚へと垂直にかかる重力を維持しながら、
体を持ち上げていく。


同僚教師を誘って登った山は、
三俣蓮華から薬師岳
見事な雲海に、若い同僚教師は酔いしれた。
北岳から鳳凰三山
白馬連峰から黒部川
「これが山か、これが山なんだ。」
感嘆の声を上げた若い同僚がいた。
剣岳から黒四ダム、
剣沢の雪渓と剣の岩尾根に同僚たちはふるえた。
穂高の涸沢キャンプは雨つづき、悲鳴を上げる登山だった。


教え子と登った夏山。
三俣蓮華から黒部源流、黒部川上の廊下下降、
渡渉し、トロを泳ぎ、黒四ダムまで、成功して挙げた祝杯。
涸沢から穂高連峰、これには15人が参加した。
北岳から縦走して、
農鳥岳からの長い長い下り道、下りてきた村は盆踊りをしていた。
薬師岳から黒部川、雲の平に抜けた山行、
稜線の雷にみんな逃げた逃げた。
三俣蓮華岳から高瀬渓谷へ下った道は、人の通らぬ道、
どうしてこんなところへ?
と、日本カモシカが、ぼくたちを不思議そうに見つめていた。


息子たちとは、彼らが小学生のとき、
八ガ岳に登った。
上の息子が中学3年の時は、燕岳から常念岳まで縦走した。



この夏、一緒に山に登ってきた教え子夫婦もやってくる。
結婚した下の息子夫婦も帰ってくる。
我が家から麓まで車で行って、蝶が岳に登り、常念岳まで縦走しようかしら。
蝶ガ岳のお花畑、花がいっぱい咲いているかな。
槍が岳、穂高連峰の絶景を久しぶりに見に行こうかしら。


かんかん暑い夏の日、
どうしようかな。
山へ行こうか、どうしようか。