巣立ち


       鳥の巣立ち


我が家に電話したら、
玄関の軒先に巣をかけていたツバメのヒナたちが巣立ったという。
残念ながらその瞬間に立ち会えなかった。
妻の報告では、
朝は、子ツバメがいた。
午後、巣を見上げてみたら、もういない。
よく見ると2羽の発育遅れの子が残っていた。
餌を発育のいい子に取られてしまい、
この子らは、親からあまりもらえなかった。
だから、体も小さかった。
育つかどうかあやしいと案じていたら、
その子らも、夕方には巣立ったのか、
もう1羽も姿が見えなかったという。
体格の差は画然としていたから、
これから自分で餌をとって生きていけるかなあと、
いささか心配でもある。


川辺の道に、カラスの親子らしい2羽がいた。
石塀の上に子ガラスがおり、
そこへ親がヘビをくわえて飛んできて並んでとまった。
親は、くちばしから垂れ下がる長いヘビの体を、
ひっぱりひっぱり、肉をちぎりとって食べていく。
子ガラスは、自分もほしいと、親の横に並んで鳴いて催促する。
すると、突き出してくる子のくちばしを、
親はポンとつついた。
子ガラスは、黙って従順にくちばしを引っ込めた。
子どもは、催促を二回ほどしたが、それ以上の要求をしない。
親は、すでに干物になっていたヘビの死骸を、
とうとう子どもには一切やらずに食べてしまった。
親と子には節度があった。
その態度に、カラスの世界の親子関係が現れているように思えた。
おそらく巣立ちした子どもに、
親は餌を取って食べて見せ、
自分で取って食べることを示していたのだろう。
子どもも、巣立った以上は、親に依存することは控えようという、
そんな感じが漂うシーンだった。


あの田んぼのケリ、
6月16日にはまだ田んぼの真ん中で、
ごくろうさん、ごくろうさん、
ケリケリ鳴いて、辺りを見回していた。
ところが、翌日、姿がこつぜんと消えた。
鳴き声も聞こえない。
ケリも、子どもの巣立ちを向かえ、この地から東北地方へ移動して行ったか。
毎日そこにいたものが、いなくなる、
そこにはいくばくかの感慨が流れる。
遠くへ去っていたものを心が追う。
生きていくもの、野生は、あざやかなもんだ。


それから一週間後、1羽のケリが、
田んぼにいた。
東北へ飛び立つケリの、
遅れた1羽なのか。
その1羽も、その午後、姿を消した。