古いトマト


        トマト変身


トマトは古かった。
ポリのパック入りで、外見では少し古いように見えた。
一週間ほど前にその店で買ったものは、へたの部分が青く、新鮮だったから、
今度のものも、まあ大丈夫だろうと判断して買って帰った。
ところが、開けてみたらひどかった。
中玉の何個かは黒っぽくぶよぶよになっている。
へたの緑も黒くしなびている。
これは売り物にはならないよ、こんなのを売るのはひどいよ、返しに行くか、
と考えたが、店は遠い。
何かいい方法はないかなあ、そうだ、煮るのはどうだろう。
去年妻が、たくさんのトマトソースを作っていたのを思い出した。
まずタマネギ一個を細く切って炒めた。
次にトマト数個を細切れにして加え、
押しつぶすように炒めていった。
ここで、アイデアがひらめいた、ここへリンゴを入れよう。
季節はずれの、もうあまりおいしくないリンゴを一個小さく刻み、
ほうりこむ。
次は味つけ、どうする?
そこでまた ひらめいた。
買ってから使うこともなかった瓶、「バジルとオリーブのドレッシング」をふりまく。
そして弱火で、よくかきまわしながら煮込んでいった。


いい色になってきた。
見た目にも、うまそう。
リンゴはトマトの赤に染まり、
タマネギは、とろりと溶け、
トマトはソースになった。
スプーンですくって味見をしてみた。
おっ、これはいける。
上品な、トマトとリンゴとオニオンの、
何と言おう、
スープでもなし、炒め物と言っていいのか、
煮込みと言っていいのか、
新しい料理ができあがった。


料理とは縁のない人生を送ってきて、
この期に及んで、料理に挑戦している私。
必要は発明の母という。
必要があるから、創造しようとし、
そこから発明、発見が生まれる。
この過程には、そうしてみようとする意志が要る。
そして気力が要る。
二日後、今度は、さらにシーチキンの缶詰を一個分、
最後に加えた。
これも、うまくいった。


さて、今日はどうする? よっこらしょ。