日本で働く中国人の女の子

 

       ホンシャから来た手紙
 

ホンシャが日本に来て一年がたつ。
奈良県の小さな縫製会社で働く中国の女の子。
週に六日間、朝八時から夜遅くまで残業する。
規定月給は六万円、残業して十万に達する。
三年間働いて資金を蓄え、故郷に帰る。
資金は、弟の学費など家族のために使う。
地元の公民館で行なわれている「国際フレンドの会」の、
日本語教室に来ていた彼女は、
まさに「打てば響く」、
理解力、記憶力が抜群だった。
学費がなかったから、大学へは進学できなかった。
意外な日本語を知っていて、驚くことがしばしばあった。
どうしてそんな言葉を知っているの?
「辞書を毎日見て覚えています」、
と応えた彼女の辞書は、小さなポケット版。
日本で働く三年間に、日本語能力検定試験を受けたらいいよ、
そうアドバイスしたことで、
彼女は目標を持った。
検定試験までお世話できずに、
奈良を去ったことがぼくの心残りになっている。


拝啓
お元気ですか。長野県では生活とか仕事がいかがですか。
もうそこの環境に適応しましたか。毎日きっと楽しいでしょう。
月日のたつのがはやいですね。
しらずしらずに、別れてもうすぐ二か月になりますよ。
私たちはほんとうに先生が懐かしいですよ。
特別に先生の講義が大好きでした。
とても面白かったですね。
それに覚えやすかったです。
先生と別れるのが、私にとって本当に残念ですよ。
でも仕方がないですよ。
中国では、
「天下無不散之宴席」ということわざがあるでしょう。
先生はきっと聞いたことがあるでしょう。
今、「標準日本語」の中級を勉強しています。
文章の内容は多いし、文法も難しくなりました。
でも、上田先生はいつも詳しく教えてくれますから、
私もマスターできますよ。
だから心配しないでください。
今年、日本語能力試験に参加するつもりです。
まずは二級をとりたいです。
先生を失望させないように必ず努力しよう、がんばりましょう。
まもなく、父の日になりますね。
父の日おめでとうございます、と祈ります。
実際に日本語で手紙を書くのが初めてです。
だから言葉使いが不適当なところがあったら、
ご教示くださいませんか。
もうすぐ夏になりますね。くれぐれもお体を大切に。
 敬具     
  6月13日