「ドストエフスキーの肖像」と「永久に」

 

 

 

 

 

    室生犀星の詩の中に、「ドストエフスキーの肖像」と「永久に」という二編の詩がある。

 

    ☆    ☆          ☆

 

     ドストエフスキーの肖像

 

  深大なる素朴

  耐え忍んだ 永い苦しみ

  鈍い恐ろしい歩調で迫る君の精神

  そのひたいには

  ペテルブルグの汚れた空気が

  クモの巣のように かかっている

  騒音がする

  叫びが聞こえる

  悩んだものの美がある

  強いねんばりした人間性

  ねちねちした生命

  無窮なれんびん

  あー 寛大

  肩幅の広い おこりっぽいようなこの人

  この人は迫る

  温かい呼吸で迫る

  あなたは貧乏にうち勝った

  あなたはシベリアの監獄に四年もいた

  あなたの葬式にロシアの学生が

  あなたの棺のあとから

  鎖や手錠をひいて

  参詣しようとして 官憲から停められた

  ‥‥

  この人の暗黒時代

  がまんにがまんを かさね 

  勉強しろ

  どのような苦しみも この人の前では誓える

  この人は万人のものだ

  万人の魂に根を張ってゆく大地だ

  誓え

  よく生き よく勉強してゆくことを

 

 

      永久に

 

  「一生涯手を取り合っていきましょう」

  「カラマーゾフの兄弟」の

  コーリャのこの言葉を読んだ時

  私は涙を感じた   

  たとえ悪い人間になっても

  善い人間に成長しても

  お互いにいっしょに遊んだ少年時代を忘れないでいよう

  少年たちが誓い合うところで

  私は何もかも忘れて泣き出した

  ああ 『永久にそうしてゆきましょう!

  一生涯手を取り合ってゆきましょう!』