「夏は来ぬ」、午前4時からの散歩の途中、今朝も歌った。ランが聴いていた。
この歌は、明治29年に作られ、新編教育唱歌集に収められた。作詞は佐々木信綱、作曲は小山作之助。1番は、
「卯の花の匂う垣根に 時鳥早も来鳴きて しのびねもらす 夏は来ぬ」
卯の花はウツギの花。「卯の花」も「時鳥(ホトトギス)」も古代からよく歌われ、万葉集にも入っている。この歌の2番は、
「五月雨のそそぐ山田に 早乙女が裳裾ぬらして 玉苗ううる 夏は来ぬ」
稲の苗を美しく「玉苗」と呼んでいる。早乙女の手で植えられていく作業は神聖であった。
3番、
「橘の かおる軒端の 窓近く 蛍飛び交い 怠り諫むる 夏は来ぬ」
春から夏へ、農家は忙しい。放置すれば草はたちまち成長し、草ぼうぼうになる。水の管理は毎日やらねばならない。仕事を怠ると、作物は育たない。戒めの言葉は生活の言葉。
4番、
「楝散る 川辺の宿の 門遠くクイナ声して 夕月すずしき 夏は来ぬ」
楝はセンダンの木。初夏に紫色の花が咲く。クイナは水に浮かんで魚をもぐってとる鳥。
5番、
「五月闇 蛍飛び交い クイナ鳴き 卯の花咲きて 早苗植えわたす 夏は来ぬ」
旧暦の5月 月の出ない夜の闇は暗く深い。五月から六月の、暮らしのなかの自然を歌っている。当時の子どもたちは、この歌を歌いながら、季節を感じ、味わった。
当時どこにでもあったこのような暮らしと自然は、今は消滅してしまった。