「ナチスは『良いこと』もしたのか?」

 

 検証 「ナチスは『良いこと』もしたのか?」という書が昨年出版されている(岩波ブックレット)。

    筆者はドイツ現代史の研究家、小野寺拓也氏と田野大輔氏。ナチズム研究を踏まえて、「ナチスは良いこともした論」を検証している。ナチス・ドイツが行ったユダヤ人せん滅の歴史に対して、「ナチスは『良いこと』もした」という「反」論が大手を振って歩きだしているという。それをどう考えるか。

    2022年度から高校で、「歴史総合」が始まり、歴史について自分の意見を持つように求められる。その際、「事実」と「解釈」と「意見」の三層は、歴史的思考力として重要になってくる。

    

    ドイツでの反ユダヤ主義が広がったのは第一次世界大戦であった。ドイツ軍が劣勢におちいると、ユダヤ人が前線から逃げているという噂が流れた。戦争に敗れると、ユダヤ人の裏切りのせいでドイツは負けたという説が唱えられた。1918年以降、反ユダヤ主義的な扇動、暴力、差別が急速に広がった。

    このような下地があって、ナチスヒトラーが台頭、ドイツの政権を握ると、ユダヤ人を「共同体の敵」と定めた。1938年11月、「水晶の夜」が起きる。突撃隊、親衛隊によるユダヤ人殺害、破壊、略奪。ドイツ人の子どもたちは、街中でユダヤ人を見かけると、攻撃したり、はやしたてたりした。

    「社会的反ユダヤ主義」は多くの国に存在していた。ドイツ以外の他の国々は、ナチスユダヤ人迫害を見て見ぬふりをした。そして1939年、第二次世界大戦が勃発した。

    1941年、ナチスによるユダヤ人の移送が始まり、強制収容所、撃滅収容所送りが行われた。ナチ体制をドイツ人は熱狂的に支持した。

 

    先日、朝日新聞コラムにこんな記事が出ていた。1月7日の「折々のことば」(鷲田清一

 

    「動物も人間もさ、地球に間借りしているんだって思ったらどうだい!」

    第二次世界大戦下、ナチスドイツの侵攻に抵抗するユーゴスラヴィアパルチザン兵士が、自分たちユダヤ人には安住の地はない。戦争は「みんなのもの」であるはずの土地の領有をめぐって起こるのだと言う。別の戦士は、「みんなのもの」と思うと「自分の分」もあることになる。それもそもそもまずいんじゃないかと反論する。 (漫画『石の花』坂口尚から)

 

    1月8日の「折々のことば」

 

   「あたしね‥‥ここ(収容所)にほうりこまれてから、やっと誰とも対等になれたと思ったの」

    ナチスの収容所では、人は出自や財や地位でなく、労働が可能かどうかだけが問題とされ、その存在も単なる番号に還元された。顔面にあざのある女性はそのことで、逆に不当な差別から解放されたと語る。

    現代、差別の解消が「難民」という否定的な形でしか実現していない現実を、人はどう乗り越えるのか。 (漫画『石の花』坂口尚から)

 

    「ナチスは良いこともした」というのであれば、これもそういうことになるのか。