今朝の新聞。次のような記事が社会面トップにあった。
<約40年間、精神科病院に入院していた統合失調症の男性が、国に賠償を求めて提訴した。
原告は16歳で入院し、40年間精神病院から出られなかったために地域で自由に暮らす権利を奪われた。
日本では精神病は隔離されて当然という偏見と差別意識が根強い。
2014年時点での平均在院日数の国別比較をすると、イタリアは13.9日。イギリスは42.3日。日本はなんと285日。欧米諸国は、精神病患者は地域でみんなと共同の生活を営みながら、診療所に定期的に通い、生活を楽しんでいる。
だが日本政府は、患者が地域で暮らせるように体制をつくることを怠ってきた。2017年時点では、入院患者約27万8千人のうち約17万1千人が1年以上、9万1千人が5年以上入院していた。
日本は、1968年にWHOから改善を勧告されていた。それなのに、実効性のある措置をとってこなかった。原告は人生の大半を病院で暮らし、結婚する機会も自由な時間も失った。>
これが訴えの主旨である。
1990年に、医学者の石川信義氏が「心病める人たち ~開かれた精神医療へ~」という本を出している。(岩波新書)
そこに書かれていたことは、瞠目すべき事実だった。
当時、精神病院は1600余。大半が私立。入院者は35万人。その半数以上が5年以上も入院している。その人たちは外へ出て生活できない。イギリスの場合は、5年以上の在院は2パーセントだったが、日本では50パーセント以上だ。
35万人のうち20万人は、入院が長くなりすぎて、社会に戻りにくくなっている。病気が重くてそうなっているのではなく、医療体制がそうさせてしまっていた。患者は犠牲者だった。
石川は欧米を視察した。欧米はどうなっているか。
イタリア、精神病院の廃絶に向かって法改正をしていた。
イギリス、精神病院の病床を縮小し、病者をまちへ戻していた。
フランス、アメリカ、北欧も同じような動きだった。
石川はこう書いていた。
「福祉とは、弱者も一般の人とまじって人間らしい営みができるようにする政策のことだろう。地域ケアの体制が整えられれば、35万人うち少なくとも20万人は外で暮らせるようになる。」
今朝の新聞で、原告の伊藤さんが述べていたこと。
「私の転機は東日本大震災です。避難先の茨城県の病院の医師から、グループホームに行かないかと聞かれ、最後のチャンスだと思った。61歳で退院し、地域で8年間生活し、今夏アパートに引っ越した。自分で選んだ場所で暮らせ、どこに行くのも自由、夢のようだ。」
伊藤さん、通院しながら、絵を描き地域で交流しながら生きている。
「今が青春です。」