ランの寝床の古毛布



ランの寝床は一枚の古毛布。
ランの毛がいっぱいくついている。
ときどき天気のいい日に、外の犬小屋の屋根に干してやる。
風が吹くと、くっついている毛が飛んでいって、少しきれいになる。
風上に立って毛布の端を持ち、ぱたぱたと毛布をはたくと、毛布はさらにきれいになる。
一日太陽光を吸い込んだホカホカになった毛布を四つ折りして、部屋の中に敷いてやる。
これはランにとってとても快適な寝床になる。


ランは、夜は家の中に入って家族と過す。
立ち入り禁止の部屋以外は自由に動ける。
宵のうちはだいたい居間で、トウチャン、カアチャンと一緒にいる。
飼い主というより、トウチャン、カアチャンのほうがランにとっても僕らにとってもぴったりする。
甘えてスキンシップをねだってきたり、ぼくの足を相手にレスリングをしたりする以外は、このごろ寝そべっている。
暖房の入っている居間は天国だ。
ときどき居間から出て、自分の寝床のある部屋へ行くことがある。
そこだと誰にも邪魔されず、古毛布にくるまって休むことができる。


ランの寝床のある部屋は、ぼくが書斎に使っている部屋で、本棚や机があり、秋から春までは根菜を貯蔵するダンボール箱を置いている。
サツマイモは2箱あったが、紅アズマという種類は寒さに弱く、正月まで置いておくとアン入りになってしまうから、変質しないうちに全部食べてしまった。
ヤーコン、サトイモはまだ少し残っている。カボチャもある。
イモ類はモミガラの中に入れている。
いちばん寒さに弱いサツマイモの箱の上には、トウチャンとカアチャンの古毛布をかぶせていた。二年前まで長く使った厚手の毛布で、端のほうがほころび始めていた。
ランは、この箱の横に自分用の毛布を敷いてぬくぬくと安眠していた。
 

ランは寝る前に、自分の古毛布を、自分の気に入ったように敷き方を工夫する。
これがおもしろい。
犬でも、こんなことをするのかと感心する。
安眠できるように、鼻で毛布を押し広げたり丸めたり、寒い夜は、毛布が小鳥の巣のように円くなっていて、その巣の中にランは丸まって寝ている。


それがこの冬、ランは驚くべき行動をとった。
ある朝、サツマイモの箱の覆いにしていた僕の青い古毛布の端が、ランの寝床にかかっていたことがあった。
どうもそれにランの体が接触し、その一部の上で寝たらしい。
その次の朝だった。
部屋に入って見るとランは、青い毛布は床に敷かれていて、ランの寝ていた跡が円くできている。
あきれて、思わず叫んでしまった。ランの知恵には驚きだあ。
ランは発見したのだ、この青い毛布のほうが、それまでの自分の古毛布より暖かい、と。


この青い毛布はまだランに使われては困るから、僕は毛布をきちんとたたんで、机の上に置き、その上に折りたたんだブルーシートを載せた。
これでランは使わないだろうと思った。
ところがその翌朝、ランは見事に青い毛布を机の上から引き下ろし、そこに寝ていたのだ。
これは明らかに意識的な行動だ。

カアチャンは、もっと厳重に毛布をブルーシートでくるむようにして、机に置いた。
ランはどうするか、興味があった。

朝になった。見事なホームランだった。
ランはまたもブルーシートの下から毛布を引き出して、以前の毛布は見向きもせずに寝ていたのだ。
ランの丸い寝姿の跡が毛布にできていた。
トウチャンとカアチャンはあきれはてて大笑い、
もうこの毛布ここには置いておけない。
ランの知恵にはまいりました。