雨が欲しい


 黒豆が、播いた種の3%ぐらいしか芽が出ていない。かなり日数が経っているのに。去年までは、一斉に芽吹いていたのに。
 芽の出る時間差は当然あるが、今年の芽の出方は、差が大きすぎる。雨がなく、土の乾燥が進んでいるからかなあ。
 そこでこの二日前から、水やりをしている。夕方、クルミおばさんが田んぼに水を入れるとき、水路に流れる水をいただいて、バケツで撒いている。痛む膝をひきずってバケツの水を少しずつ畝に流していく。こんなやり方は農家ではしない。広い畑ではこんなやり方、通用しない。黒豆は5畝ぐらいだから、なんとかバケツ方式でやれる。発芽が3%ぐらいというのは、数えた数字ではなく、ざっと見渡したところの感覚的数値。
 土があまりにも乾燥しているから、一回の水まきでは、浸透しない。水は土の表面を流れるだけで終わる。表面が濡れただけだ。それを見て水やりができたと判断すれば大間違い。指を土に突っ込むと、中はカラカラ。そこで全畝を一回撒いてから、二回目に移る。それでもまだ浸透していない。指を入れると水は第一関節まで。下は相変わらずカラカラ、三回目撒いて、さて四回目どうする? そのとき、クルミのおばさんが、
「水、止めていいかね」
 クルミおばさんの田んぼにはたっぷり水が入ったようだ。ぼくは、もう四回目を撒く力が尽きていた。時間も午後6時近い。
「ありがとうございます。止めてもいいですよ。」
 明日もまたすごい日照りになりそうだ。水撒きしたところは午前中で乾燥してしまうだろう。
 雨が欲しい。雨粒は、土の中に少しずつ時間をかけて確実に浸透する絶妙な天の恵みだ。
 隣のソウゾウ君の小さな畑を見ると、ナスの苗が数本、サツマイモの蔓が二十本、あといろいろ植えられている。ソウゾウ君は、造園業で働いていて、畑に来る時間がない。ナスもサツマイモも、葉っぱが枯れかけている。水路のたまり水を、ソウゾウ君のナスと、サツマイモに撒いておいた。
 元気に根付けよ。