「風船に乗ってきた手紙」


    風船に乗ってきた手紙

妻が庭に出たら、
姫こぶしの枝に紙切れがぶら下がっていた。
ゴム片が紙切れに糸でつながっている。
取ってみたら風船の手紙だった。
うんどうかいで、ふうせんをとばしました。
ひろった人はてがみください。
大阪河内長野のながのだい幼稚園から飛んできた風船は、
1125メートルの金剛山を越えてきた。
秋の山を見下ろしながら御所まで飛んできて、
われて我が家の庭に落ちた。
手紙にかかれた子どもの字と子どもの顔、
しゅんとくん。
ぼくは返事を書いた。
ここは、ならのごせというところだよ。
おじいちゃんと、おばあちゃんが、てがみをひろいました。
しばらくして、しゅんとくんからはがきが来た。
青い服に、赤いずぼんのしゅんとくん、
赤い花のような太陽が輝いている。
赤い風船、青い風船、黄色い風船がとんでいる。
先生の文章が添えられていた。
「しゅんとくんは、とっても優しい年長組の男の子です。
風船に付けたお手紙のお返事が来て、
とても喜んでいました。
このハガキの絵も時間をかけて、ゆっくり丁寧に描いていました。」
しゅんとくんの顔にまん丸の黒い眼、口が笑っている。
ぼくはまた返事を書いた。
2006年元旦、
年賀状の中に、画用紙で作られた緑のハガキがまじっている。
しゅんとくんからの年賀状だった。
 あけましておめでとうございます
 しゅんとより。
貼り絵の犬の顔が笑っている。
絵の具をぽたぽた落とした大きな丸の上に小さな丸が三つ、
それが三組、並んでいる。
はてな、ああ分かった。
犬の足跡なんだ。
しゅんとくん、今年は小学校一年生だね。
ぼくは、おおきなひらがなで、
年賀状の返事を書いた。